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(2012年9月) < *印 新仮名遣い> |
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星野 清(選者・編集委員) |
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秀作 |
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○
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Heather Heath H *
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シャボン玉吹きつつ幼も行進す原発反対パレードの中に
丁寧に束ねし「アララギ」残りたり短歌(うた)は命と生きたる父に
未だ見ざる僻地の父の古里は観光棚田に変わりしという |
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評)
毎週のあの原発反対のデモを捉えてその性格まで、実に巧みに表現している1首目のように、写生写実を極めながら推敲してきた過程を含めて、それぞれ心に残る作品となった。 |
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○
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山木戸多果志 *
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川沿いを歩くと広い空が見えゆったりとした時が流れる
広大なる無柱空間にスパコンが八百六十四台並ぶ
整列せるスパコン「京」の筺体はかの兵馬俑のごとく壮観 |
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評)
特色ある歌材を捉え、いちいちの指摘に応えて磨き上げ、よい歌が完成した。3首目は、少し手を入れてここに引いた。 |
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○
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波 浪
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中耳炎骨髄炎と治さねば八十四歳まだまだ死ねぬ
過疎となりし村に田を守る弟が父母の法事に帰れよと言ふ
八十四のわれを頭に六人の子ら欠くるなし父母の法事に |
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評)
推敲を重ね、実に即したよい歌になった。特に2首目に惹かれる。 |
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○
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星 雲
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老いて誰も病隠して耐へ居るや弟が肺気腫を病むと洩らしぬ
帰省する気力の無くて弟と電話に病を労り合ひぬ
阪神がまたも負けをりすつぱりとチャンネル替ふるはわれの抗議ぞ |
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評)
老いを感じている作者が、病む弟と心を分かち合うさまが、しみじみと伝わってくる。1首目、「・・・病む」としてここに引いた。3首目には類歌が多い。 |
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○
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金子 武次郎 *
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しばらくと挨拶をするボランテイアに五十年前の顔蘇る
ボランテイア活動するのが生きがいと七十五歳が生き生き語る
こんな本買っていしかと手に取れば赤い傍線ところどころに |
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評)
作者の日常が手際よく映し出されている。これらのような歌があってもよいと思うが、もっと厚みのある、味わいのある歌の詠める方だけに、今後を期待したい。 |
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○
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古賀 一弘
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炎天下よろめく影を引きずりて片蔭拾ひ駅へと向ふ
痛む歯をなだめすかして心太啜れば潮の香口に広がる
あの世へと誘ふがごとく蛍舞ふ友のお通夜の帰りの径に |
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評)
それこそ心の影を引きずっているような歌だ。今後の進展を期待する。 |
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○
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漂流爺
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原爆忌に片言さへも悼みなし八時三十分のモーニングショーに
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評)
作者の憤懣が、この一首から充分読み取れる。 |
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佳作 |
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○
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紅 葉
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東京にふる雨の音ききながら休みに入らむ君を思へり
いますぐに飛んで行きたし「夕飯をひとりとった」ときみの声きき |
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評)
1首目、作者の歌いたかったことはこうなのだろうと手を入れた。改作が大幅になったので、秀作には推さなかったが・・・。 |
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○
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もみぢ
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虹色にひかる幼のシャボン玉吹くストローに蜻蛉止まりぬ
峰峰の名を記したる立札の外湯に遠き山並みを見ぬ
闇の中の黒き容(かたち)の富士山に登山者の灯り点点とつづく |
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評)
表現力が増せば、2、3首目などもっとよい歌になりそうだ。今後に期待している。 |
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○
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岩田 勇
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初孫の生まれし友のぼやきを聞く「さっぱり犬がよりつかない」と
薄給に愚痴もいはずに黙々と遣り繰り上手な妻に感謝す |
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評)
こんな調子でどんどん感覚と表現力を磨いてほしい。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
歌を詠む上で心掛けるべきこと
同じようなことを毎回述べていますが、今月の歌にふれて感じた留意点を記してみます。
◎ 何を伝えたいのか歌を始めたばかりの人でも多年やっている人でも、自分が歌いたいと思ったことは何なのか、何を伝えたいとしているのか、充分に吟味することが大切です。
◎ 何を手がかりにして伝えるか歌おうとしてみると、思いのほかいい加減に見ていたことに気づくことがよくあります。対象にとことん向き合って、充分に見、また感じとることが大切になります。
◎ どんな言葉で伝えるかそれを言葉にするのです。どのように表現するかでなやんだら、いろいろな言葉をぜひ辞書によって確かめて比較し、最も適切と思う言葉を選んで下さい。
◎ できた歌は声に出して読み返し、声調を整えるなどなど、大事なことはまだまだあります。
* 解説を付けなければ読み取ってもらえないのでは、歌とは言えません。Iさんの歌、残念ながら採れませんでした。
星野 清 (新アララギ選者・編集委員)
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