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(2012年10月) < *印 新仮名遣い> |
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八木 康子(新アララギ会員) |
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秀作 |
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○
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古賀 一弘
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座らぬが男の沽券と中吊を眺めてをれど席譲らるる
癌病棟の廊下を照らす終夜灯生きよとばかり点滅すなり |
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評)
1首目、大まかなアドバイスから飛躍的にピタリと推敲が決まりました。2首目も対象に目を凝らして改稿に集中した賜物でしょう。 |
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○
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金子 武次郎 *
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傘寿とて寿き難き時勢なれば祝いの膳はワイン一本
平均寿命超えしと言えど煩悩の炎は消さずありのまま生く |
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評)
熱心に時間を掛けて自己の心情を吟味され、実に即した読み振りになりました。1首目「時代」を「時勢」にしました。 |
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○
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星 雲
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盗塁を刺したる捕手もさりながら瞬時を撮りし写真家の腕
入賞せし短歌祭りへ弾みゆく今日行く先は病院ならず |
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評)
1首目、瞬時に湧くようにできあがったようなリズム感が心地よい歌。2首目も下の句への転回が出色です。 |
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○
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山木戸 多果志 *
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運河には小雨降る日が良く似合う町のささめき雨に消されて |
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評)
写実ながら、背景に心象も込められているような深みがさらりと表現されました。
「片瀬浜」も心地よい歌。「毎日の同じ電車の同じドア瞼に残る似たもの同士か」も惹かれる歌材です。下の句「似たもの同士か瞼に残る」ではいかが。 |
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○
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まるお
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フルカウント満塁に立つバッターのこころの中に入りてみたし |
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評)
「鍵掛けて」も「CT」の歌も含めて、ちょっとした事にも心の響く感度の良さをどうぞお大切に。「CT」の歌の最後は「体を移す」ではどうでしょう。 |
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○
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Heather Heath H
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日の暑き南小谷の駅を出で時待つしばし地野菜選ぶ |
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評)
旅先でも思わず主婦の顔になる一時を、逃さず切り取って共感を呼ぶ歌。「赤彦の歌碑」の二首も実直で気持の伝わる歌です。 |
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○
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漂流爺 *
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母の植えし葡萄の青き実を食みて悲しみだけが残る古里
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評)
短歌はかなしみの文学と言いますが、まさしく深い哀感が滲みます。 |
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佳作 |
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○
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波 浪
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わが病われより案づる妻ありてこの身は他に何を望まむ
免許証返して妻の運転にゆつくり巡る四つの医院を |
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評)
現実を肯定して素直に感謝する姿勢、しみじみとした安息感が伝わります。 |
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○
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もみぢ
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片隅の古き竈に湯のたぎる曲り屋に馬の眼は涼しげに
南部なまりに「座敷わらし」を身振り入れ語る媼のきめ美しく |
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評)
対象を丁寧に見つめて作歌する姿勢は、今後に生きると思います。一部、手を加えて採りました。 |
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○
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みちこ *
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空を見上げ体がフッと軽くなる今なら君と別れられるよ
君からのさよならメールに肯いた悲しみ六分に納得四分 |
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評)
初稿に拘泥せず何度も見直す柔軟性も作者の力です。これからも若さのはじけるさまざまな思いを詠んで下さい。 |
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○
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ハワイアロハ *
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「本読んで」とねだりし息子も三十路過ぎ地球の裏からメールが届く
「ご飯だけは捨てられない」と言う我と理詰めで諭す青い目の夫と |
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評)
1首目。母親の感慨を具体表現のみで的確に捉えた作。2首目。歌の向こう側に伝えきれないほどの思いが透けて見えます。得がたい素材をどうぞ今後につなげてください。 |
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○
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まなみ *
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ぽっかりと白き花のみ浮かび出て庭は消えゆく夕闇の中に |
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評)
推敲に費やした時間はそのまま実力につながるものです。今後ともお励みください。 |
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○
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紅 葉
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黒髪の淡く匂へり玄関のトビラの影で別れを告げる |
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評)
推敲の結果、的確に抑えた表現を見つけました。「匂へり」と2句切れにしました。 |
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寸言 |
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選歌後記
こうして一ヶ月関わってみると、最終稿に提出された作品以外にも愛着がわき、選歌に向かうのは思いのほか大変でした。できることなら同列に・・・とさえ思ってなかなか手がつきませんでした。
歌に向かう皆さんの真摯な姿勢が、あの猛暑を乗りきるエネルギーにもなりました。縁あって短歌に導かれた私たちです。短歌の奥深さに目を見張りつつ、短歌の不思議な力に背中を押されながら、一歩一歩あゆんで行きましょう。
Iさんは初稿がもう少し早く出て改稿3まで推敲できるとよかったのですが、助言を再読して是非仕上げて欲しいと思っています。
八木 康子(新アララギ会員)
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