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(2012年12月) < *印 新仮名遣い> |
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内田 弘(新アララギ会員) |
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秀作 |
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○
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くるまえび *
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友の霊瓦礫と椰子の島に着く我呼ぶ声か潮騒の音 |
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評)
東日本震災の瓦礫に纏わることがベースになっているのだろう。その瓦礫と今は亡き友の霊がオーバーラップされる、という歌だ。下の句の直接的な嘆きが良い。 |
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○
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漂流爺 *
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濡れ錆びる放置自転車はコンビニの明りのなかに影の浮かびぬ |
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評)
今や都会では普通に見られるようになった放置自転車とコンビニの取り合わせが現代を映している。印象が強い歌になった。都会の孤独ともいうべきものをはらんでいる。 |
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○
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Heather Heath H *
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県興しの瀬戸田レモンと生姜汁に砂糖の紅茶は頗る美味し |
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評)
事柄を羅列しているように見えて、そうではない。きびきびした言葉の斡旋の中に心が息づいている。リズムの軽快なところが良い。 |
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○
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ハワイアロハ *
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スコールの後の夕空澄み渡りワイキキのビルシルエットとなる |
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評)
ワイキキの浜に隣接するビル群であろう。「スコール」の後の夕茜なのだ。それがシルエットになっている、というのだ。手際よく情景を纏めた所が優れている。 |
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○
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中村 すみれ *
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口ごもり背中に隠れし少年はいつしか父の背丈を越えぬ |
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評)
この歌に類する感慨を詠った歌はあるが、上の句の具体が生きている。「口ごもり背中に隠れ」た少年の成長を静かに見守っている視線が良い。 |
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○
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な の *
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朝焼けに染まり気球は飛んで行くカッパドキアの空の高みに |
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評)
旅行詠はともすれば報告的で甘い表現に終わることが多いが、この歌は印象的な場面をきちんと捉えて詠っている所が優れている。「空の高みに」の結句も効いている。 |
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○
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金子 武次郎
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「八十を超えなば人生下り坂」たわけたことをと酒を飲み干す |
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評)
痛快ではないか。「たわけ」と一蹴して酒を飲み干す場面が生き生きと読む者にも伝わってくる。こんな歌ももっともっとあっても良い。 |
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○
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時雨紫 *
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手にすくう木漏れ日揺れて胸弾む病の後に元気が戻る |
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評)
なかなか印象的な場面と作者の病後の喜びが新鮮な感動として伝わってくる。「元気が戻る」は少し大雑把な表現ながら巧く収まっている。 |
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○
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百 花 *
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休日もなく原発に働く弟よまたも過酷な新聞の記事 |
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評)
原発事故は様々な部分に深刻な影響をもたらし、これからも続く。この歌も働かざるを得ない立場からの歌。しかしマスコミは一面的な報道しかしない。現実に生きる人々の嘆きが少し表面的な表現ではあるが、出ている。そこは注意してもよい。 |
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佳作 |
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○
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きよし *
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留守が好しと遠出断り居る家に昼を過ぎれば家族が恋し |
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評)
素直な気持ちの出ている歌だが、少し表現が物足りない。「恋し」がもう少し別な表現で読む者に迫るようだと良かった。 |
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○
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波 浪
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ふるさとに農を守りて逢ひ難き老いたる弟よ病むこと勿れ |
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評)
素直な感慨が表現されている。お互い兄弟とは言いながら遠く離れている。年齢と共に肉親の情は深くなるものである。そこを巧まない表現で謡ったところは良い。 |
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○
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ふみ子 *
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砂浜に流木立てて基地作る島の子供の夢に付き合う |
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評)
砂浜で屈託なく遊ぶ島の子たちへの温かいまなざしが感じられる歌だ。「夢に付き合う」のところの具体化はほしかった。 |
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○
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岩田 勇
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騒がしき椋鳥の群れはせはしげに砂場を占めて啄みてをり
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評)
椋鳥に焦点を当てて一首を完成させたところは良い。砂浴びのせわしない様子が活写されている。 |
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○
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古賀 一弘
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川越へタイムスリップの旅に出る江戸の風情や蔵造りの街
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評)
川越の街並みを手際よく纏めた。「タイムスリップの旅」と位置づけて詠んだところはなかなか良い。 |
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○
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山木戸 多果志 *
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ウオーキングの合間の休み気持ち良し我一瞬の眠りに落ちぬ
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評)
気持ちを一直線に詠んでいる所は良い。もう少し「気持ち良し」の所を深めて詠えるともっと良かった。 |
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○
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紅 葉 *
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提灯のともる出店にくじを引く子等の姿のありありとして
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評)
懐かしい風景に心を動かされて出来た作品。お祭りの風景はいつも郷愁を誘う。「ありありとして」に気持ちが込められている。 |
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○
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石川 順一
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車乗り直ぐに手に付く蟻を見てその不思議さを払拭出来ず
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評)
一瞬の出来事から類想が及ぶ。蟻が手に付いている。その不思議さも、さることながら、そう考える作者の不思議さへ考えが及んで行くという、ちょっとした心理の動きは面白いところだ。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
このHPもたくさんの皆さんの投稿で活発になっていることは喜ばしい。改稿の度に確実に作品が、その体裁を整えてきているのも頼もしい。
そこで、これからはまず第一に「何を詠いたいのか」をしっかり持つてほしい。何となく投稿規定があるから作品を出す、というのではなく、自分が今、詠いたいのはこういう事だ、ということを見据えてから作品化してほしい。詠う意味に乏しいものは、結局のところ、改稿しても良くならない。
その上で、どんな表現の工夫が必要か、ということが勝負なのだ。それこそが推敲なのである。
今月は、おおむねみなさんの作品も強い詠う意味のある作品が多かったが、中には何のために歌っているのか、という作品もあった。私も含めて作品化するときの戒めとしてゆきたい。そして、もっと、「いま」を詠えないか、と今月も思った。いま生きているこの状況に敏感になり、自分の周囲をも含めて大胆に切り取って詠ってほしい。
内田 弘(新アララギ会員)
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