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(2013年1月) < *印 新仮名遣い> |
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大井 力(選者・編集委員) |
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秀作 |
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○
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金子 武次郎
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高齢者が後期高齢をもてなして敬老会は坦々と進みき |
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評)
今の社会をくっきりと切り取っている。自らの体験を見たまま詠みそれが強みでもある。抑えられた思いが深い嘆きとなっている。 |
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○
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なの *
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落ちし葉に羽を休めていし蜻蛉(あきつ)低く立ち行き長くは飛ばず
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評)
対象を凝視する作者の思いがよく出ている。作者が見ているのは蜻蛉でもあり、作者のというか人間のいのちでもある。 |
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○
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漂流爺
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山茶花の赤く咲き澄む冬の暮れ事業破れて三年目の庭に |
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評)
原作を少し替えて取った歌。二句目「静かに」を上記とした。結句字余りでも「に」を付したほうがいい。作者の深い嘆きがそのほうが伝わると思った。生活感のある歌である。そして今の現実の歌である。 |
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○
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くるまえび
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ビキニにて肌焼くハワイの浜に来て聞きたり軍事演習の音 |
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評)
二句目は「人が肌焼くハワイの浜」と丁寧に詠うべきと思うが、この現実感がいい。 |
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○
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Heather Heath
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福島の内部被爆を学習し出で来し町を飾る電飾
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評)
複雑な思いで町の電飾を見る作者が彷彿とする。 |
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○
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山木戸 多果志 *
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思い立ち道順を変えて歩む道霜月のフエンスに時計草の花 |
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評)
なんでもない生活の一こまである。遅れて咲く時計草の花、霜にもめげず咲く花にこころを寄せる作者である。 |
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○
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まなみ
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豆好きの母の記しし豆日記に続けて私の頁を綴る
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評)
結句は「綴る私の頁を」としてもいい。素直さが妙にこころに残る歌である。こういう歌もいい。 |
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○
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ハワイアロハ
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バレリーナのチュチュから伸びるしなやかな脚輝きて高く跳びたり |
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評)
この歌の前の投稿歌に作者の脚は手術を待つ身であることがわかる。この作にあるチュチュとはバレリーナのスカートであると作者の書きこみで知った。この羨望のこころは切ない。連作でないと分からない歌であるが、感情の籠ったいい歌である。 |
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○
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きよし
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道の脇の草刈りくるる人々に声かけて腰のリハビリ続く |
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評)
このかけてゆく声は当然感謝の言葉であろう。温かい歌である。 |
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○
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岩田 勇
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暗闇に波音いつしか静まりて能登の海原凍星の飛ぶ |
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評)
叙景の歌が少なくなった昨今、雄大に詠み上げている。 |
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○
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古賀 一弘
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江戸古地図広げて偲ぶ墨田川神田浅草紙魚の痕あり
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評)
手際のいい作品である。作者の古きものへのあくがれは温かい思いを呼ぶ。 |
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佳作 |
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○
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すみれ *
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海風に椰子の並木の靡きおり切り立つ峰のコオラウ山に |
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評)
丁寧に風に従う椰子並木をみている。この対象を切り取る手際がいい。 |
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○
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波 浪
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生体検査の結果を聞くと待つ部屋に加湿器よりの霧吹き止まず |
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評)
淡々と生活のひとこまを述べているが、ここにいうに言われぬ情感が籠っている。こういう味わいもいい。 |
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○
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時雨紫
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生徒達のスケボー通路に並べ置く「テスト反対」の声なき声か
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評)
この1首はまだ未完成であるが、可能性が一番ある歌。上下逆にしてもいい。「生徒等の声なき声かテスト反対のスケボー通路に並べ置けるは」としてみると教室のありさまが生きいきと伝わる。 |
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○
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紅 葉
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言ふべきを言ひし高揚収まらず足踏み入るるダンススタジオ
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評)
なにを言ったかは定かではない。しかしこころをきり切り替えようとする作者の思いがくっきりとわかる。こういう素材を生かすのは難しいがよく把握した。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
この投稿欄の作者の水準が上がってきているのを感じて嬉しいかぎりである。歌にこころを寄せることは一瞬一瞬を丁寧に生きることにほかならない。今日何をするか、今何をするか考えるだけでいい。地味でいい。こころを深くして眼前のものを見るのがいい。ひたすらに見るのがいい。なんでも「ひたすら」が一番である。奇策、奇手は不用である。「ごとく」という比喩が少なくなったのもいい傾向である。
大井 力(新アララギ選者・編集委員)
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