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(2013年2月) < *印 新仮名遣い> |
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大窪 和子(新アララギ会員)
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秀作 |
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○
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文香
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山の端の雲を伝いて広がりし朝日を割りて鳥々の声
俯きて悲しみを消し笑み返す新幹線のホームの君に
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評)
清々しい朝の景と、別れの抒情、2首共に作者の思いが生き生きと伝わる作品になった。2首目、上の句が捉えどころ。下の句への流れにも情感がある。 |
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○
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きよし
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釣上げし旬のタカサゴ捌く手に硬く太れる魚体が滑る
漫才の番組共に子と見れば笑いのツボが時々ずれる
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評)
捕れたばかりの新鮮な魚が立ち上がってくる。2首目は目の付けどころがいい。「時々ずれる」の背景に世代の違う親と子の現実が示唆されている。 |
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○
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くるまえび
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アロハ着てねじり鉢巻に餅をつきホレホレ節で故郷偲ぶ
猫眠る部屋の奥まで影のばし西日は差し込むハワイの我が家
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評)
ハワイの餅つきが躍動的に表現されて魅力がある。ホレホレ節は望郷の労働歌とか。2首目は具体的に捉えた上の句と結句がいい。共にハワイの風と光が感じられる。 |
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○
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Heather Heath H
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在宅に母看取りしを取材さる介護を知らぬ若き記者来て
ひとたびは終えし「断捨離」気が付けばまた物増えぬバッグに衣類に
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評) 介護など想像できない若い記者と向き合う作者の違和感がさりげなく表現された。「断捨離」、なかなかできない人間のさがを捉えて面白い。 |
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○
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波浪
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針生検の結果出るまで一週間それには触れずわれもまた妻も
身の垢をすつぱり落しさくさくとリカバリ終へしパソコン動く |
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評)
1首目の結句に、不安や怖れ、期待などのさまざまな思いが秘められ、それに触れないお互いへの労りも感じられる。2首目はパソコンをいって自分のことようなさっぱりした気分を読者も味わう。パソコンへの羨望もチラリ。 |
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○
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金子 武次郎
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西空を染めて沈みし秋の日の光鋭く山の背に残る
「また来たぞ」微振なれども幼子はすかさず潜りぬ机の下に |
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評)
「鋭く」がお手柄。くっきりした格調のある叙景歌となった。「潜りぬ」は「潜る」とした方が臨場感があると思う。これも現実を捉えて納得できる歌。 |
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○
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漂流爺
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子を殺めし母は手縄(たなわ)に引かれゆく冷めたるままの眼(まなこ)哀しき
空爆にガザの子は死ぬ胸抉りしアンネの日記の嘆きは止まず |
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評)
共に昨今の重い現実を詠って力がある。「哀しき」「嘆きは止まず」という感情表現に頼らないで思いを伝える努力することが、作者を一歩前に進めると思う。 |
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○
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山木戸 多果志
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寒い日にどこからともなく飛んで来る白い綿毛に春を想おう
街中の渋滞抜けてようやくにスピード上げる広き橋の上
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評)
結句「想おう」はどうも収まりが悪いが1首に流れる情感に魅力がある。2首目は渋滞を抜け出た運転者のほっとした解放感がうまく捉えられた。 |
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佳作 |
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○
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ハワイアロハ
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父母と戯れ言いて笑い合うこのひと時を胸に刻まむ
片時雨フロントガラスの雨粒を透かし山辺に虹の立つ見ゆ |
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評)
2首を通じて作者の柔らかい気持が伝わる感じのいい歌。あとの歌、情景はいいのだが1首の流れを滑らかにするための工夫がもう少し出来ると思う。 |
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○
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時雨紫
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粗料紙に墨あと滲む恋の歌和泉式部の愁い伝わる
意欲見るバロメーターは目の光冗談まじえて生徒励ます
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評)
和泉式部の自筆の歌だろうか、魅力のある歌。あとの歌は先生が生徒に向かう意欲が感じとれる。下の句、「冗談まじえて」あたり少し説明的。 |
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○
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蒲公英
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舞い降りしハイビスカスの枝のなか餌をさぐるか赤きカージナルス
走馬燈まわれよまわれ歳晩に集う祖父祖母かつての家族
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評)
南の国の鳥が思われて楽しい歌。どのように餌をさぐるのか知りたくなる。あとの歌、下の句をもう一工夫すればいい歌になると思う。 |
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○
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古賀 一弘
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歳時記と青春切符携へて老いの入舞奥の細道
夕焼を遠く見つめるキリンの目動物園はサバンナの夢
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評)
共に作者らしさの見える歌。あとの歌は漠然としているようにも感じられるが、キリンと一緒にサバンナを思う作者が彷彿して味わいがある。 |
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○
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岩田 勇
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買初めはいつもの激安スーパーなり年金暮らしに足らふを知りて
あの語りあのお惚けを今一度惜しみて懐かし小沢昭一
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評)
前の歌は現実をくっきり表現していて潔く、快い。あとの歌、あまり親しくない故人の挽歌は難しい。表現が過剰になる傾向がある。要注意。 |
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○
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紅葉
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休日をひとり過ごしぬマラソンの大き大会気づかぬままに
陽だまりに膝を揃えて目を閉じる朝の車内に話す声なし
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評)
日常の中の一コマを静かに掬い取っている。少し淡い感じ。難しいことだが、もう少し歌に思いを刻み込んでほしいと感じる。 |
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付記 |
石川順一さん、5首拝見したが理解不能。短歌は読み手に伝わってこそのものである。考え直して再度の挑戦を!
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● |
寸言 |
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選歌後記
最終稿に向き合う気持は格別である。それぞれの作品に初稿からの経緯、作者の努力のあとが見えるからだ。詠いたい内容を見つけてから、納得できる歌に仕上げるまでの自分自身との対話が、歌を完成させると同時に作者のこころを育てるのだと思う。躓いたり転んだりしながら歩んで行く道である。このページに投稿される方々にも、そうした心意気が感じられるのは楽しい。その意味でも事情はいろいろあろうと思うが、参加しながら最終稿を提出されなかった方は残念である。ぜひ次月に繋げて学んで行ってほしい。
大窪 和子(新アララギ会員)
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