佳作 |
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○
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文 香 *
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携帯から聞こえる言葉こぼさぬよう膝を抱えて耳を澄ましぬ
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評)
若い作者の日常が、みずみずしい感性により良く描かれている。「膝を抱えて」と具体的描写を入れて成功した。「空にあるよりもやさし海原に映えて揺らめく冬の太陽」も感じの良い歌。 |
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○
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古賀 一弘
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おもむろに掘出物と古物商は王羲之の書を展げ見せたり
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評)
「展げ見せたり」と結句に詠み得たことで、その場の光景が目に浮かぶような一首となった。「七人の敵ゐし昔なつかしみ今は一人の碁敵を待つ」等、他の二首も安定している。 |
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○
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くるまえび *
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今日もまた日本の客は5千人迎えてあげたしアロハの心で
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評)
「迎えてあげたしアロハの心で」という下句に、作者のやさしい心根が表されており、好感が持てる。「潮を吹く鯨に歓声上がりしはダイヤモンドヘッドを望める沖に」は「歓声上がりたり(上がりおり)」とすれば、上句と下句のつながりがスムーズになる。 |
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○
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漂流爺 *
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風寒く墓石擦る兄の手の乾びて細し子の三回忌に
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評)
「乾びて細し」に兄上を思いやる作者の心情が良く表れている。他の二首も寂しい感じが出ている。 |
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○
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紅 葉 *
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お太鼓の決まらぬきみとぎりぎりに起き出す子等と年始に向かう
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評)
作者の家族への温かなまなざしが感じられる歌。結句は「行く」よりは「向かう」とでもした方が、据わりが良いため、直して採った。 |
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○
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時雨紫 *
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母の手にリンゴのうさぎ載せやれば見えぬ瞳に微笑み宿す
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評)
事実を素直に詠み、共感を覚える一首。特に下句が良い。 |
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○
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栄 藤
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梅林にモデルの髪なびく一瞬を納めむとレンズを丹念に磨く
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評)
「レンズを丹念に磨く」という具体的描写で、生き生きとした作品となった。 |
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○
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波 浪
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一目惚れせしとき二十四なりき今もなほ愛し五十年経て
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評)
「妻」という言葉はないが、奥様への愛情が良く伝わってくる。推敲を重ね、整った一首になし得た。「福寿草は今年も居場所を違ふなく落ち葉敷く庭の隅に芽を出す」も良い。今更ながらのコメントになってしまうが、下句がややいそがしい感じ。「落ち葉敷く庭に芽を出しゐたり」「芽を出してをり吾が庭の隅に」等、あと少しだけ整理すればさらに良くなる。 |
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○
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山木戸多果志 *
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三日にて溶けてしまいし街の雪放射能汚染は未だ消えぬに
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評)
放射能汚染に今なお苦しむ地に住む人の不安な思いが、下句に良く表れている。他の二首からも作者の日常が伝わってくる。 |
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○
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岩田 勇
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洋蘭も人の言葉が解るのか優しく褒めれば美しく咲く
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評)
飾らない言葉で作者の感動が表現できており、共感できる作品となった。 |
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○
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きよし *
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昨晩は子との食事に語り合い今朝のコーヒー格別美味し
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評)
下句を「すっきりとして朝の日に居り」から、より具体的な描写へと推敲し得たことにより、作者の感動が伝わる一首となった。コーヒーも一緒に飲んだのであれば、「昨晩の食事に語り合いし子と今朝飲むコーヒー格別に美味し」としても良い。 |
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○
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北沢 恒平
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春を待つ年の初めに祈らむか還れ明るき世の中にこそ
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評)
初稿「あらたまの年の初めに祈らむか還れ明るき世の中をこそ」から推敲を重ね、作者の思いの届く一首となし得た。これからも日々の生活の中の感動を詠み続けてほしい。 |
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参考(締切時間後の投稿)
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○
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石川 順一
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組まれたる足組み登るとび職を見て居る帰宅の車の中で
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評)
上句の細かな観察による描写は好感が持てる。下句はやや表現が固い。「見てをり家へと向かふ車に(家路を急ぐ車に)」等。 |
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