作品投稿


今月の秀歌と選評



 (2013年3月) < *印 新仮名遣い>

小田 利文(新アララギ会員)



秀作



ハワイアロハ *


ワイキキにゴザ敷きレイを売る人は黄のプルメリアに糸通しゆく



評)
ワイキキの美しい光景が目に浮かぶよう。「ゴザ敷き」「糸通しゆく」といった具体的描写により、魅力的な作品となった。他の「二週間見ぬ間に緑萌え出して山輝けりハワイの冬に」「同窓会の席にアルバム廻り来て皆それぞれに眼鏡取り出す」もレベルの高い作品に仕上がった。



金子 武次郎


釜房の湖面に映る蔵王山昨夜(きぞ)の初雪頂に見ゆ



評)
雄大な景色を詠むことに挑戦し、一首となし得た。改稿1「釜房の湖に映れる蔵王山初雪降りしか朝日に光る」と較べ、とりわけ下句に作者の工夫がうかがわれる。「暁に外行く人の足音の硬く響きぬ道は凍てしか」も感じがあって良い。初稿にあった、どこかで聞いたようなところがなくなり、作者が耳をすませて聞いている感じが表れている。



蒲公英 *


山麓の緑潤うマウナケア天文台が白く光れり



評)
スケールの大きな作品。「白く光れり」という作者の工夫が実った。「道の辺に廻る小さき風ぐるま小花溢るる竹筒添えて」は対照的に、細かな観察が生きている。



Heather Heath H


声高くヒヨドリ鳴きて嘴の先より白き息の洩る見ゆ



評)
細かなところを良く捉え、整った一首となし得た。これからも自然を良く観察した、このような作品を期待したい。「ながながとテレビに論ずる体罰を断じて教育ならずと思う」は訴える力を持った社会詠。



まなみ *


雨やみてコオラウ山の山襞を伝い落ちゆく幾筋もの滝


評)
改稿3「雨やみてコウラウ山の襞毎に十数本の白糸の滝」からさらに整った一首となった。ハワイに住む人でさえ滅多に見ることのできない光景に出会い、それを歌にすることができた。「白糸の滝」という言葉への執着を最後に断ち切った、作者自身の決断によるところが大きい。「落ち行くいく筋もの」は「落ちゆく幾筋もの」と表した方が落ち着く。


佳作



文 香 *


携帯から聞こえる言葉こぼさぬよう膝を抱えて耳を澄ましぬ



評)
若い作者の日常が、みずみずしい感性により良く描かれている。「膝を抱えて」と具体的描写を入れて成功した。「空にあるよりもやさし海原に映えて揺らめく冬の太陽」も感じの良い歌。



古賀 一弘


おもむろに掘出物と古物商は王羲之の書を展げ見せたり



評)
「展げ見せたり」と結句に詠み得たことで、その場の光景が目に浮かぶような一首となった。「七人の敵ゐし昔なつかしみ今は一人の碁敵を待つ」等、他の二首も安定している。



くるまえび *


今日もまた日本の客は5千人迎えてあげたしアロハの心で



評)
「迎えてあげたしアロハの心で」という下句に、作者のやさしい心根が表されており、好感が持てる。「潮を吹く鯨に歓声上がりしはダイヤモンドヘッドを望める沖に」は「歓声上がりたり(上がりおり)」とすれば、上句と下句のつながりがスムーズになる。



漂流爺 *


風寒く墓石擦る兄の手の乾びて細し子の三回忌に



評)
「乾びて細し」に兄上を思いやる作者の心情が良く表れている。他の二首も寂しい感じが出ている。



紅 葉 *


お太鼓の決まらぬきみとぎりぎりに起き出す子等と年始に向かう



評)
作者の家族への温かなまなざしが感じられる歌。結句は「行く」よりは「向かう」とでもした方が、据わりが良いため、直して採った。



時雨紫 *


母の手にリンゴのうさぎ載せやれば見えぬ瞳に微笑み宿す



評)
事実を素直に詠み、共感を覚える一首。特に下句が良い。



栄 藤


梅林にモデルの髪なびく一瞬を納めむとレンズを丹念に磨く



評)
「レンズを丹念に磨く」という具体的描写で、生き生きとした作品となった。



波 浪


一目惚れせしとき二十四なりき今もなほ愛し五十年経て



評)
「妻」という言葉はないが、奥様への愛情が良く伝わってくる。推敲を重ね、整った一首になし得た。「福寿草は今年も居場所を違ふなく落ち葉敷く庭の隅に芽を出す」も良い。今更ながらのコメントになってしまうが、下句がややいそがしい感じ。「落ち葉敷く庭に芽を出しゐたり」「芽を出してをり吾が庭の隅に」等、あと少しだけ整理すればさらに良くなる。



山木戸多果志 *


三日にて溶けてしまいし街の雪放射能汚染は未だ消えぬに



評)
放射能汚染に今なお苦しむ地に住む人の不安な思いが、下句に良く表れている。他の二首からも作者の日常が伝わってくる。



岩田 勇


洋蘭も人の言葉が解るのか優しく褒めれば美しく咲く



評)
飾らない言葉で作者の感動が表現できており、共感できる作品となった。



きよし *


昨晩は子との食事に語り合い今朝のコーヒー格別美味し



評)
下句を「すっきりとして朝の日に居り」から、より具体的な描写へと推敲し得たことにより、作者の感動が伝わる一首となった。コーヒーも一緒に飲んだのであれば、「昨晩の食事に語り合いし子と今朝飲むコーヒー格別に美味し」としても良い。



北沢 恒平


春を待つ年の初めに祈らむか還れ明るき世の中にこそ



評)
初稿「あらたまの年の初めに祈らむか還れ明るき世の中をこそ」から推敲を重ね、作者の思いの届く一首となし得た。これからも日々の生活の中の感動を詠み続けてほしい。

参考(締切時間後の投稿)



石川 順一


組まれたる足組み登るとび職を見て居る帰宅の車の中で



評)
上句の細かな観察による描写は好感が持てる。下句はやや表現が固い。「見てをり家へと向かふ車に(家路を急ぐ車に)」等。


寸言


 ひと月近くを皆さんの作品と向き合ってきて、私にとっても愛着のある歌ばかり。秀作とならなかった作品もそれぞれに、読者に感動を与え得る力を持っています。nanakoさん、若山さんは今回最終稿のご投稿がなく、残念でした。次回に期待します。
 今月の「先人の歌」にはアララギ歌人落合京太郎がハワイで詠んだ作品を掲載しました。今後の作歌の参考になれば幸いです。

              小田 利文(新アララギ会員)



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