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今月の秀歌と選評



 (2013年5月) < *印 新仮名遣い>

米安 幸子(新アララギ会員)



秀作



波 浪


臥しをれば地響き低く伝はりて妻の車の帰りたるらし



評)
初稿のままである。臥せる作者が、全身で捉えた安堵感。「おかえり」の言葉が聞こえる。



金子 武次郎 *


八十を超えたりと言えなお欲す働く気力支える体力



評)
上の句と下の句のバランスがよく、力強い作品となった。



漂流爺 *


日の暮れにつがいの鴉の飛びゆきて会話少なき家に帰る吾



評)
「つがいの鴉」をキーワードとして、推敲を重ね、心理を描写し得た。深みのある作品となった。



Heather Heath H *


八十を越えて言葉の穏やかに反原発を説く被爆牧師は



評)
穏やかではあるが、信念を持って説く牧師に、作者も尊敬と同感を抱いている。



 時雨紫 *


春山に父の教えし花探し背に負う遺影に告げつつ登る



評)
父によって登山を教えられ山の花にも親しんだ。「遺影に告げつつ登る」という具体が切なく、余韻を醸す



くるまえび *


中天に墨絵のごとく雲ながれ芭蕉の葉陰に満月現わる



評)
バナナの木を芭蕉とよんだとある。作者の美意識の表れであろう。満月によって辺りが一変する瞬間を捉え、短い言葉で表した。落ち着いた作品となった。



ハワイアロハ


吾が姓のLとRの発音に舌もつれたり日本人われ



評)
ハワイに住むこと33年の作者の実感。「日本人われ」と言い切って、説得力がある。


佳作



古賀 一弘  *


「女の子ほしかったわね」と紙雛を飾れる妻に相槌打ちぬ



評)
ある日の一コマを「紙雛」で以て掬いあげ、成功した。穏やかな日々が背後に窺える。



仁科の囁き


久々に鉞を手に山に入る屋根の押さへの丸太を伐りに



評)
鉞を振うのも、屋根を押さえるのも大変な作業であろうに、ぼやいていない心意気がよい。



蒲公英  *


「がんばるね」と言いし妹思いてはハイビスカス咲く庭に佇む



評)
「病名も不明のままに入院せる窓の外には雪降り続く」があって、理解をたすける。雪の日本と居住地のハワイとの往還をうたっている。



文 香  *


春日射すこの海と風をとどけたしフェイスブックでつながる君へ



評)
OA機器全盛の今を、さらっとうたってさわやかである。



栄 藤


考へてはならざる事をとどむべく短歌に心を移さむとする



評)
頭を離れない何かを払おうとする刹那(瞬間)の心動きを捉えた。「歯痒くもわれは見てをり鉢ごとのクリスマスローズうつむきて咲く」も面白いと思った。



きよし *


我が庭をぽっぽぽっぽと歩みいる鳩を目に追う留守居する昼



評)
いかに手持無沙汰なときでも、楽しめる作者であろう。「鳩を目に追う」で救われた。



菫 *


シャムロ鳩の朝のコーラスひびきわたりホノルルの町あかく明けそむ



評)
作者には「チョットコーイ」と聞こえるというハワイの野鳩。よあけの声を捉えて、明るく広がりのある情景が好ましい。



まなみ *


園児から贈られしレイに首を埋めお別れの日の写真に収まる



評)
卒園式当日のことであろう。園児達もまじめな顔で並んでいる。



岩田 勇


色々な人生見てこしわれなるよマンション管理人十年を経て



評)
内容があるだけに、もう少し推敲してほしかった。



山木戸 多果志 *


荒れしままの古墳の草を刈りているボーイスカウトの心意気良し



評)
「心意気良し」とまとめてしまったが、ボーイスカウトの写生に徹して、生き生きと歌ってほしかった。



紅 葉 *


娘から会ってほしいとメール来る妻は会わぬと言いはる相手に



評)
初稿のみであった。事実のみを述べて、言外を窺わせる作品。歌には詳しすぎるとの評もあるかもしれない。


寸言


今月は男性11人女性8人、全員の提出をみて感無量です。
色々な場面での、感動を伝えたいばかりに経過を追って語りすぎてしまう。31音に整ったところで安心してしまう。改めて自らにも言い聞かせたことでした
歌を詠むことにより、言葉を選び表現するたのしさを覚えられたかと思います。優れた作品を読み深めたいと思います。

              米安 幸子(新アララギ会員)



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