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(2013年6月) < *印 新仮名遣い> |
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星野 清(新アララギ選者・編集委員)
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秀作 |
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○
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波 浪
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八十五まで生きたんだからもういいとさつき思つてゐたではないか
寝てをれば「草臥れたるか」起きてをれば「大丈夫か」と妻が気遣ふ
百姓が何より好きといふ弟の継ぎてくれたる実家は安し |
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評)
1首目、揺れ動く心を、平易な言葉でうまく捉えている。2首目、話し言葉を生かして、妻君の心遣いをきちんと受け止めている作者。3首目、ようやく見出した第4句、今後に活かしてほしい。 |
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○
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ハワイアロハ
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ほら貝を合図にフラの始まりて踊り子の顔トーチに輝く
はるばるとカリブの島まで来てみれば我が家によく見る椰子の木と海
口すぼめ時には舌を突き出してみどりごは開く青きその目を |
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評)
それぞれの歌の焦点の合わせ方や表現に、作者の力を感じる。 |
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○
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菫
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空輸されし桜の枝に小菊添えハワイに暮らす歳月思う
風孕むハンググライダー草原に凧をかわしてふわり降り立つ |
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評)
骨を折った推敲が功を奏し、両首情感をたたえる歌となった。 |
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○
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Heather Heath H
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ワイキキの浜に撮られし若き吾この時限りのビキニ着ており
ホノルルの芝に拾いしデ−ツの実その濃き甘さ未だ忘れず |
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評)
「この時限り」を捉えたことにより、歌が生き生きとした。後の歌と共に、着実な表現がよい。 |
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○
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時雨紫
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答案にまた落書きかと思いきや山掛けはずれた悔しさの歌
山裾に黒雲かかり降り出せば家路に向かう心も走る |
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評)
前の歌の下の句、手際よく表現できた。後の歌、初稿から完成度が高かった。 |
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○
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文 香
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包丁に瑞々しさを覚えつつ具沢山スープの野菜を刻む
結論の出ない会議を引き摺りて月に映りし影踏み帰る |
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評)
1首目の3句は評者の提案だが、この方が作者が推敲の過程でこだわっていたことが表れよう。次、下の句に心が充分反映している。 |
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○
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茫 々
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山吹の咲きゐるひるをひとり居て無為なるままに酒酌みにけり
藤棚に翳をつくれる百房の藤の紫うつくしきかも |
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評)
前の歌の4句の原作の「われは」は言わずもがな、しかも目立ち過ぎなので手を入れた。後の歌、センスがよい。後の歌、初稿からの推敲は見事だった。(結句の「かも」は詠嘆) |
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○
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もみぢ
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うすれゆく記憶を嘆き病む友が綴る短歌をしみじみと読む
命終えし母を見守り暁の病室にひとり弟妹を待つ |
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評)
両首、着実な上の句により、それぞれの歌の思いが汲み取れる。 |
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○
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くるまえび
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白波に乗るサーファーは手合図のハングルースで挨拶交わす
風で散り道を覆いしプルメリア避けつつ歩むワイキキの朝 |
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評)
サーフィンをする人の姿を手際よく捉えている。後の歌、4句の余計な助詞「は」を省いて採った。その違いを感じてほしい。 |
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○
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蒲公英
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通学のオレンジバスを児らが待つオヒアの赤き花咲く道に
パンシアナの大樹に咲ける朱き花コナの夕陽になお燃えさかる |
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評)
南国の空気が感じられる。後の歌は、原作の出すぎた言葉を押さえて手を入れて採った。 |
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○
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金子武次郎
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足と手に痛みに加え痺れ来てわが身体かと思う時あり
脊柱管狭窄症に痛む足を庇い堪えて八十となる |
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評)
「わが身体かと思う時あり」など、老いの嘆きが充分に伝わる。 |
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佳作 |
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○
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きよし
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頼まれし洗濯物の取入れを忘れしままに仰ぐオリオン
帰り来てシャワー浴びつつ子は歌う楽しき今日の証の如く |
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評)
一進一退しながらたどり着いた最終稿のこの2首がよい。採らなかった3首目は、下の句を生かして今後ぜひ完成させ残してほしい。 |
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○
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もみぢ
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風そよぐ夕暮れの庭を二階より見れば白々と花水木の花
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評)
原作の下の句は息張り過ぎている。これはひとつの提案。 |
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○
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紅 葉
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「嵐山」謡ひ終へたり今日限りやめると師匠に言ひだせぬまま
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評)
心のわだかまりがこもって味わいのある歌となった。他の歌は、意味がよく通じないままに終った。 |
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○
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石川 順一
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帰宅せし父は再びゆく前にスイカを食べて一服したり
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評)
全体に筋書きのみの感があるが、1首目の上の句の言葉の流れを整えて採った。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
何を歌いたいのか、繰り返し反芻しよう
これは歌になる、これを歌いたい。そう思って幾つかの言葉を選び、歌の形に整えていく。
ところが、自分がこれぞと思ったものが、そんなものは歌にならないと否定されてしまうことを多くの人が経験している。そのような時には、どうしたらよいのだろうか。
原点に還って、何に心を動かされたのかを繰り返し反芻するがよい。心の琴線に触れたものが何だったのか。反芻を繰り返すことによりそれが明確になってくれば、作りたい歌も見えてくるものだ。
それが見えてこなければ、やはりつまらぬ歌だとあきらめるしかない。
星野 清(新アララギ選者・編集委員)
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