佳作 |
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○
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時雨紫 *
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超音波に映し出さるる初孫の目に耳にわれは語りかけおり
男(お)の子かな胎内カメラを覗き見て小さき突起見つけて笑う |
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評)
胎内にあって、大切に待たれている命。愛する者の目には、すでに一つの人格をもって受けとめられているのだ。 |
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○
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ハナキリン *
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チャイム鳴る教室我らの窓から見ゆ礼終えし子らは弾け輝く
熱き気を放てる窓より詰襟の子ら手を振りおり我らに気づいて |
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評)
年齢も状況も全く違う者同士が、ふとした折に笑みを交わしあう。中学生だろうか、その素直な明るさが、まぶしい。 |
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○
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金子 武次郎 *
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亡き母の初午料理は「しみつかり」吾がふるさとの味のなつかし
臥所より一声かけて起き上がり着替えに八分今日が始まる |
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評)
季節やふるさとに結びついて、幼い日の“母の味”は心の奥に残っている。歳を重ねられた今に、なおなお深く。 |
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○
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茫 々
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春浅き羊歯の緑葉に日の差せり古人(いにしへびと)らも行きしかこの道
古き道に梅の木ありてひえびえとこぼるる花の白く悲しき |
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評)
古い道を歩き、小さな所に心は動く。日の差す羊歯の葉に、散る花の白さに。時を越えて昔の人にも思いは及ぶ。 |
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○
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くるまえび *
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蓬莱の歌の友らと集まりて大和ことばに歌を詠みあう
台湾の歌の友らの思いやりありがたきかな合同歌会に
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評)
「蓬莱」「大和ことば」という言い方にも、慕わしさが感じられよう。ハワイ在住の作者が台湾を訪れての合同歌会。 |
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○
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栄 藤
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松葉牡丹の種を四月に蒔かむとて下駄箱の上に置きてこの日々
薬害の無しと思はねど八種類いづれ抜きてもならぬ常薬 |
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評)
種を蒔くこころをもって、四月を待つ。その心持に惹かれる。「下駄箱の上」という具体性が、歌を生かした。 |
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○
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波 浪
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老いの身を運び来て乗るエスカレーターその一段目は遣り過ごしたり
内向的われには解せずバスに行く明日を控へて妻機嫌よし
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評)
長年連れ添った夫婦であり、異なる個性をもつそれぞれ。ふとした折のあらためての発見が、あたたかい。 |
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○
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雲 秋
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桜樹の蕾は固くいまだいまだ梢の向うの空見つつ行く
君が代の国歌は好かねど日の丸はわが気に入りなり祝日には掲ぐ
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評)
まだ固い桜の蕾。そこから視線は果てしない空へとそそがれる。読み手の思いも、のびのびと大きく広がる。 |
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○
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紅 葉 *
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寝間着脱ぐ朝の瞬間いさぎよし春はこのまま来るかと思う
見て分かる資料にしろと怒鳴られぬあらがう力今はもたざり
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評)
仕事でどんなに疲れても、朝は、もう一度元気さを与えてくれる。この時ばかりは、春もすぐそこに感じられて。 |
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○
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岩田 勇
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春雨に焦りも少し和らぎて昔おぼえし歌口ずさむ
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評)
心がやわらかに移ってゆく過程が、ゆったりと詠まれている。出来事的ではなく、魅力ある詠みぶり。 |
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○
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石川 順一
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昼間からビール飲みつつ写真撮る既に葉桜なるが不思議で
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評)
花の時はいつの間にか流れ進んでいたのであろう。下の句がなんとも正直であり、この歌の持ち味となっている。 |
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