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今月の秀歌と選評



 (2014年12月) < *印 新仮名遣い>

八木 康子(HP運営委員)



秀作



ハナキリン *


枯れ葉舞う街路にかげろう揺らいでる工事夫の顔に汗したたりで
寒き日の朝の吐息が「おはよう」の声を乗せれば温かくなる


評)
1首目。今年の秋のある日の様子を生き生きと捉えている。2首目。前向きで明るい性格がそのまま結実したような心地良さがある。どちらもひらめきが得られるまで推敲に集中して結果を出した。「職場の制服」の歌も発想が若々しく、いい歌と思う。



菫 *


ローマ帝国は滅びてもなお街角に古代の水路真水を運ぶ


評)
旅行詠の域を脱した落ち着いた読みぶりで品位のある作品。他の2首への努力も評価したい。



金子 武次郎*


言うまいぞ昭和は遠くなりけりと昭和一桁平成を生く
季を問わず庭に咲き継ぐバラの花ご苦労さんと声かけ眺む


評)
1首目。心にある思いがそのまま歌となった。共感者は多いと思う。「短歌は生き方である」という言葉が浮かぶ。2首目。連作として鑑賞すると、奥行きのある思いの深い歌として迫ってくる。



栄 藤


パソコンを教へておくと妻に言へば「あんたが死ぬとは思つてないもん」


評)
仲の良いご夫婦だからこその阿吽の呼吸が小気味よい。間髪を入れず答えた奥さんの明るい声が聞こえてくるようだ。 



紅 葉 *


似たような思いさせしか連ドラに涙を流すきみの横顔


評)
結句の推敲が生きて一気に歌が完成した。余韻が生まれ歌にふくらみが出た。「がんばれと言うしかできず」の作も「課員から」と推敲されて歌意が定まった。



鈴木 政明 *


責任の押し付け合いの電話せし夜半の目覚めは朝まで続く



評)
似たような経験は多くの人にあろう。共感を呼ぶ内省の歌。負の記憶は忘れようとしがちだが、捉えて一首にする姿勢はきっと成長につながると思う。


佳作



ハワイアロハ *


読み返し少し口調が強いかとまた書き直す友へのメール


評)
流れるように過ぎる日常の一点を切り取る感性は得がたい。一生懸命で誠実な人柄が滲み出て好感が持てる。「絵の具」の作も深い示唆がある。



くるまえび *


マンションに灯り瞬くそれぞれに今日のひと日の出来事いかに



評)
見ず知らずの人にも静かに心をはせるゆとり、これも真剣に短歌に取り組む余禄だろうか。



小島 夢子 *


セントバーナードも住めるくらいの小屋作るいまだひよこの雌鳥のため


評)
そのまま絵本になりそうなメルヘンチックな一連、引き続きの様子も期待したい。



もみじ *


銀色に雲を光らせ煌煌たる十三夜の月ひとり拝(おろが)む


評)
4句の助詞「を」を省いて採った。そこに一拍の間ができることで歌が立体的になる。



波 浪


心臓の鼓動伝はりゐるならむ写真撮るわれを抱へる妻に



評)
老いて労わりあう関係は一朝一夕になるものではない。導入の上2句の臨場感がいい。



時雨紫 *


風邪に臥し眠気もよおす枕より飴に群がる蟻を見ている



評)
風邪で臥した状況での連作、推敲にも励み完成した達成感がわずかでも快方に向かわせたなら嬉しい。そんなポジティブな姿勢が上達への道だと思う。 



亀田 鶴男 *


おほきにと店員三人に礼言はれ太閤気分のメンチカツ定食



評)
4句目の推敲が成功した。軽い歌だが明るいのが何より。今後も期待します。他2首の「さびしゑ」や「旧校舎はも」はいかにも古い。 



石川 順一 *


殆どは黄色に染まる街路樹のイチョウは働く姿に見える



評)
鉄アレイの歌の方が独自性もあり面白かったと思う。最終稿と「利き腕の五キロ右腕三キロの鉄亜鈴の色も褪せたり」とを、もう一度比較して鑑賞してみてほしい。 



寸言


でき上がったようでも今一つ・・・と思う時の一つの方法ですが、小休止して「こういうふうにできたらいいな」と思う人の歌集などを読むと道が開けることがあります。
 頭の中の半分ほどがその作品ワールドに占領されることで、自作の癖や欠点が浮かび上がり、かなり大胆に新たな展開がもたらされることがあるのです。
 読み込むのは、このHPにUPされた作品抄や入選作、ネット上の作品集でも何でも。
 熱く入り込んでいたところから一旦離れてみるということです。

(新アララギ会員 八木 康子)



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