作品投稿


今月の秀歌と選評



 (2015年2月) < *印 新仮名遣い>

内田 弘(HP運営委員)



秀作



ハナキリン *


泊まり来る赤子のために紙おむつ下げつつ老いのレジを過ぎゆく


評)
現代の風景として、スーパーマーケットなどで、日常的に目にすることである。手際よく纏めたのはなかなかの力量である。「紙おむつ下げつつ」が具体的で良い。



栄 藤


「夫と同じ墓に入らぬとひと多し」と妻の話せしあとの沈黙


評)
この歌も現代を捉えている。無常な現実をつぶさに感じて、その儚さに沈黙している、という場面がまざまざと浮かび上がる。単純に端的に詠った所が良い。



金子 武次郎 *


「八十はまだ若いですよ頑張って」元気な若きが易々と言う


評)
励ます積りで言う若者の言葉にも素直に頷けない、それが老いというものなのか、と嘆息している作者が無理なく表現されている。意味の深い歌だ。



時雨紫 *


洋梨の食べごろ確かむ手の中の果肉のまろみ今が熟れどき


評)
珍しい題材ながら、魅力的な歌だ。「さあ、食べるぞー」とう意気込みみたいなものまで感じられて新鮮である。



鈴木 政明 *


震災後に改修せしトタン屋根雨音低き師走となりたり


評)
震災との関連は明らかにしていないが、トタン屋根を打つ雨音が低いと詠って含蓄深い歌になった。「師走となりたり」は単純に詠って、この歌の場合効いている。



小島 夢子 *


我慢するのもこれまでと殺虫剤を撒けば私も死にそうになる


評)
羽虫を詠って立派で個性的な歌になった。その独自性が良い。下の句の口語調が効果的である。歌は作者の独自性を表現できる事は喜びである。



沙 弥 *


デジタルの体重計の測定はむごい数値を一度で示す


評)
ダイエットばやりの現代を写して面白い歌になった。「むごい数値」は少しオーバーかも知れないが、切実なのである。軽く詠っているようで、なかなか面白い。


佳作



波 浪


「疑ひがある」より「異常なし」と診断をするが難しいとわが医師は言ふ


評)
高齢化とともに病院に掛かることが多くなっている日本の現状を、さりげなく主治医の言葉に代弁させているところが巧みなところだ。



岩田 勇


船影の一つとてなき元朝の海上はるかに神島の立つ



評)
元旦の清々しいさまを、具体的に海上はるかに見える「神島」を詠うことで表現したところが良い。



もみじ *


凍てつける山の湖に静かなる鴨のひとつが丸く動かず


評)
「丸く動かず」の結句でこの歌の特色が出た。静かな湖と鴨の取り合わせが自然で、さらに凍てつける張り詰めた空気までもが感じられる歌だ。



秋島 直哉 *


まだ若き従妹がくれし福袋の駄菓子舐めれば甘き思い出


評)
回想の歌としては、少し甘い表現も許される気がする。それは「福袋の駄菓子」というところが良いからである。



紅 葉 *


出場はないとは理解していても背番号12を探すスタンド



評)
いつも親心はいじらしいものだ。人がなんと言おうが、子の背番号を探している、という心情が美しいのだ。



くるまえび *


病床で指折り数え退院を待ち焦がれし苦痛の日々よ



評)
入院していた時のあの苦しさも、退院したいま、なにか懐かしく思い出される、という心境なのだろう。「指折り数え」という具体が生かされた結果である。



石川 順一


千両に新雪かそけく積もり行き午後は輝く水を湛へて



評)
丁寧に観察した結果、この歌が生き生きと表現されることになった。午前又は前夜に積もった新雪が日を受けて水となって、湛えられていると言うところが繊細である。



ハワイアロハ *


留守にする日々の仕事の手配終え日本への旅明日へと迫る



評)
日本への旅(帰省であろう)に胸膨らませている様子が伝わって来る。しかも仕事の手配も終わって清々とした心でいるのだ。



寸言


 今月はなかなか特色のある歌があって、この欄も月々投稿の皆さんの力がついてきていることが伺われた。
 短歌の基本は自分の目でみて、自分の感じ方で作るということが肝要である。人真似ではない独自性を発揮した歌は読むものを感動させる。一朝一夕にはいかないことながら、何時も五感を働かせて、対象に鋭く迫る訓練が必要となろう。
しかし、がんじがらめに考えることはない。自分が一番面白がって歌作りをすることだ。誰かの為に歌っているわけではないので、自分が一番納得する形で歌を作ってゆけば良いのだ。

(新アララギ会員 内田 弘)



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