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(2015年4月) < *印 新仮名遣い> |
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大窪 和子(新アララギ編集委員)
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秀作 |
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○
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ハワイアロハ
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「この脚」とハッピーフェイスの印付け医師は告げたり手術の開始を
朦朧としたる意識の中に聞く我が骨頭の切られゆく音 |
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評)
足の手術という辛い現実を決して暗くなく、むしろ明るく捉えているところに魅力がある。2首目の結句も確かな言葉を探しあてた。甘さに流れることのないしっかりした連作の中の2首である。 |
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○
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沙 弥
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近づいたブーツの音に立ちすくむフラッシュバックの雪と鮮血
心理士に教わった呼吸法よりもわたしはにぎる母の荒れた手を |
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評)
理不尽に傷つけられた過去のある作者。身体の傷は癒えてもそのトラウマに悩まされていることが連作にありありと表現されていた。その中核をなしているのがこの2首で、2首目の下の句は改めて母の存在の大きさを思わせ、心に沁みる。 |
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○
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鈴木 政明
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洗濯物を干さずに今朝は出勤す休暇を取りし妻に任せて
一泊の出張終えて帰宅せし吾に仕事を愚痴る妻あり |
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評)
現代では夫婦ともに仕事を持つ家庭がごく当たり前になっていると思うが、そうした暮しの機微を詠う作品は意外に少ない。その中で注目した。率直で外連味のない作風が好もしい。 |
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○
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時雨紫
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ドアにできし大き穴より目に入りぬ飛び散る衣類に空の引き出し
指紋採りに撒かれし粉の黒い染み磨けど落ちず心のシミも |
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評)
遭遇した盗難という大事件を丁寧に詠んだ連作だった。前の歌、事実がありありと詠まれて居て印象的。後の歌では傷ついた思いを結句に集約させているのが良い。「シミ」は上の句と重ならないよう選択されている。少し目立つが、この歌では可と思う。 |
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○
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もみじ
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菜の花の黄色いちめんに輝きて「朧月夜」を歌ひたくなる
八百年の時を咲き継ぐ下馬桜舞ふ花びらを掌に受く |
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評)
3首のうち鵯と目白の歌は初めから出来ていたが、粘り強く推敲を重ねて仕上げたこの2首を選んだ。気持が入り過ぎ初めは説明的だったが、苦労の末その気持をポエムとして伝えることに成功した。「掌」はここでは「てのひら」と読む。 |
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佳作 |
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○
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金子 武次郎
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訃報欄に平均寿命の人多しおのが齢(よわい)を重ねつつ見る
いたずらに馬齢重ねしと言うまいぞ命をかけて生き来(こ)しものを |
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評)
日本人の男性の平均寿命が80歳を超えたという。作者もその年齢に近いのだろう、複雑な思いが感じとれる。あとの歌は自分の人生をきちんと肯定する姿勢に胸を打たれ、読み手も励まされる思いがする。 |
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○
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菫
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明け方のバス停に立つ若き等は目も合わさずにスマホ光らす
ジョギングする海辺の道に「モーニング」と声弾ませてすれ違いたり |
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評)
一首目、昨今誰しもが目にする光景であるが、下の句の、特に「光らす」が作者独自の表現で作品を生かしている。二首目は朝の海辺をおはようと呼び交わしながらジョギングする状景が爽やかに描かれて、魅力的な作品。「声弾ませて」がいい。 |
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○
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紅 葉
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殺戮の終わりは次の始まりかボディというに似合う映像
水やりをきみがする間に陽ざし浴び僕は歌でも詠って待つよ |
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評)
今、世界中を揺るがしているISの映像を思う。人間としての感情を持たない単なるボディだという捉え方に独自性がある。二首目は一転、ほのぼのとした暖かさに、ほっとさせられる歌。 |
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○
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夢 子
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段々と人間離れして類人猿に似てきた二人毛づくろいする
天を仰ぎ片膝ついて許し乞う君の姿に笑ってしまう |
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評)
結句の「毛づくろいする」が面白い。ふたりの伸び伸びした交歓のありさまが想像されて楽しい。あとの歌は、下の句に迷ったがこのかたちで成功している。 |
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○
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栄 藤
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大き声の電話は妻が生検の良かりしを友に告げてゐる声
妻の顔の老い深まりぬわが顔も同じならむに妻の言はざり |
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評)
生検の結果が良かったと友人に告げている奥さまの大声に、作者自身の喜びも伝わる。あとの歌は共に老いてきた夫婦のいうにいわれぬ思いやりがじんとくる。二首ともに味わいのある歌。 |
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○
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ハナキリン
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節分の豆まきしたる家の子はまだ眠れるか福につつまれて
カフェラテに兎の顔が浮かんでいる一口飲めば耳だけ残る |
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評)
前の歌、「眠りしか」と過去形になっていたので現在形に、「つつまれ」は中途半端なので「て」を加えた。二首ともに面白い状景を捉えていて個性が感じられる。大切にしてほしい感覚だ。 |
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○
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波 浪
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気が付けば亡き犬の服を探しゐき通りすがりのペットショップに
見るだけでよいよと誘はれ肩を病む妻は出で行く民謡踊りに |
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評)
家族同様に暮らすペットを失うことは辛い。自身の行動を詠むことでその悲しみををうまく表現している。二首目は、踊れないけれど踊りを見にゆく奥さまのちょっと複雑な感情が伝わる。 |
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○
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くるまえび
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表みせ裏みせ落つる一葉ごとに我が人生の来し方想う
我が家の池に放ちし鯉の稚魚大きくなりて産卵まぢか |
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評)
表裏を見せながら散る落葉に人生の明暗を思う歌には幾つか出あったことがあるが、この歌は流れがよく気負わずに詠まれているところがいい。二首目には生き生きした喜びが感じられる。 |
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● |
寸言 |
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このサイトに参加する方々のレベルが全体に上がってきていると感じる。喜ばしいことである。提出される改稿の中に私自身学ばせられることも多い。
これからは、表現したい内容の説明から脱し、短歌はポエムであるという意識を持って作歌してほしいと思う。それは徒に詩的に飾るということではない。選択した31文字のなかに、どのような心の動きが秘められているか、また表わされているかということ。生易しいことではないが、ひとつの目標として共に学んで行きたい。
大窪 和子(新アララギ編集委員)
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