佳作 |
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○
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紅 葉 *
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四月には子の赴任先になるという八丈島のようかんを買う
半日に圧縮された週末にも筋トレだけは圧縮しない |
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評)
やわらかに親のこころを詠まれた一首目。父親であり、みずからも体を張って働かれる日々である。 |
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○
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ハナキリン *
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歩こうか日向となれる道選び薄き氷の膜を踏みつつ
この夏は空から掛け声聞かせてよ君亡き今年の祭りの夜に |
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評)
薄氷の張る早朝の道。「歩こう」と自分を奮い立たせる心の内が、道に託されて詠まれているようにも思える。 |
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○
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菫 *
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綻んだ友情繕わんと夜の電話 受話器の中をサイレンよぎる |
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評)
大切な友を失うまいと、夜の電話に時を忘れて訴えている。やや説明的な上の句を、下の句の現実感が支える。 |
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○
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鈴木 政明 *
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ふうと吐く息に小波生まれたりビジネスホテルの大浴場に |
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評)
思わず、「ご苦労さま」と声を掛けたくなる。仕事先の地で、やっとたどり着いたつかの間の休息なのだ。 |
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○
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夢 子 *
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彼ゆえに戦死するかも知れぬ幾万の若者憂いてトランプ氏を見る |
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評)
トランプ氏への憂いを訴える連作の中で、最も印象的な一首。料理しながらふと、命の残り時間を思う歌もいい。 |
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○
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時雨紫 *
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公園に鳩追う幼の靴が鳴り傘にてリズムとる人そこに |
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評)
歩くたびに鳴る靴。幼い子の動きは、まわりの大人の目をひきつけ、楽しいひとときに招いてくれる。かろやかな歌。 |
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○
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省 吾 *
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春雷は危うき時代の轟きか物言えぬ世の来ぬこと祈る
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評)
威圧的な言動があちこちに感じられる世の中。時ならぬ雷の轟きに、思わず、行く先への不安を重ねてしまう。 |
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○
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石川 順一 *
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カラオケで1984年に飛んでゐる学校のプールなど思ひ出されて
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評)
「学校のプール・・・」という具体性が生きていよう。流行していた歌を歌うと、その頃の自分へと心は運ばれてゆく。 |
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