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今月の秀歌と選評



 (2016年4月) < *印 新仮名遣い

青木 道枝(新アララギ会員)



秀作



金子 武次郎


七十年続きし戦後を戦前とするな平成二十八年
風呂場にて手摺頼りに湯に浸かる居眠り注意と呟きながら


評)
一首目、強い叫びである。戦争を体験された年齢の作者であるからこその、心の底からの祈りなのだ。



ハワイアロハ *


一つずつコインを数える人のあと静かに伸びてゆくレジの列
一面の桜の色の思われてふるさと日本への切符買いたり


評)
高齢の方の買い物なのであろう。人々が受け入れ待っていてくれる。日本もアメリカも変わりなく心に染みる場面。


佳作



紅 葉 *


四月には子の赴任先になるという八丈島のようかんを買う
半日に圧縮された週末にも筋トレだけは圧縮しない


評)
やわらかに親のこころを詠まれた一首目。父親であり、みずからも体を張って働かれる日々である。



ハナキリン *


歩こうか日向となれる道選び薄き氷の膜を踏みつつ
この夏は空から掛け声聞かせてよ君亡き今年の祭りの夜に


評)
薄氷の張る早朝の道。「歩こう」と自分を奮い立たせる心の内が、道に託されて詠まれているようにも思える。



菫 *


綻んだ友情繕わんと夜の電話 受話器の中をサイレンよぎる


評)
大切な友を失うまいと、夜の電話に時を忘れて訴えている。やや説明的な上の句を、下の句の現実感が支える。



鈴木 政明 *


ふうと吐く息に小波(さざなみ)生まれたりビジネスホテルの大浴場に


評)
思わず、「ご苦労さま」と声を掛けたくなる。仕事先の地で、やっとたどり着いたつかの間の休息なのだ。



夢 子 *


彼ゆえに戦死するかも知れぬ幾万の若者憂いてトランプ氏を見る


評)
トランプ氏への憂いを訴える連作の中で、最も印象的な一首。料理しながらふと、命の残り時間を思う歌もいい。



時雨紫 *


公園に鳩追う幼の靴が鳴り傘にてリズムとる人そこに


評)
歩くたびに鳴る靴。幼い子の動きは、まわりの大人の目をひきつけ、楽しいひとときに招いてくれる。かろやかな歌。



省 吾 *


春雷は危うき時代の轟きか物言えぬ世の来ぬこと祈る



評)
威圧的な言動があちこちに感じられる世の中。時ならぬ雷の轟きに、思わず、行く先への不安を重ねてしまう。



石川 順一 *


カラオケで1984年に飛んでゐる学校のプールなど思ひ出されて



評)
「学校のプール・・・」という具体性が生きていよう。流行していた歌を歌うと、その頃の自分へと心は運ばれてゆく。


寸言


 今月も、よい作品に出会うことができました。自分の身のまわりから、言葉として生まれてくる短歌。心が動いた時が源となります。その源を絶やさない生き方を求めてまいりましょう。

 身に押し寄せて感じられるからでしょう、今月は、日本やアメリカの時勢への危機感が詠まれていました。

      (助詞などに少し手を加えた作品もあります。)

青木 道枝(新アララギ会員)



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