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(2016年5月) < *印 新仮名遣い > |
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内田 弘(新アララギ会員)
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秀作 |
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○
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金子 武次郎
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認知症の初期とは知らず亡き母を叱りし時を今も忘れじ |
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評)
認知症は今や高齢社会の悩ましい問題も含んで複雑だ。この歌も、認知症とは思いもよらず母上を叱ってしまった悔恨を歌のベースにして端的に表現した所が良い。 |
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○
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ハワイアロハ *
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満開の桜並木の高台に見下ろす街は夕靄の中 |
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評)
印象深い一首。桜並木の高台から見下ろす街が靄に煙っている、という場面を手際よく纏めた。ロマンチックな夕べが目に浮かぶようだ。 |
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○
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時雨紫 *
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見届けしグリーンフラッシュは目の奥に強く焼き付き視界より消えぬ |
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評)
グリーンフラッシュとは、太陽が完全に沈む直前、または昇った直後 に、緑色の光が一瞬輝いたようにまたたく、非常に稀な現象を言うが、その場面に遭遇した時の気持ちを素直に歌にした所が良かった。 |
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○
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ハナキリン *
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坂沿いの雪なき道にもイルミネーションの光の粒が海へ伸び行く |
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評)
巧い歌である。普段なら雪に覆われている坂沿いの道に今は雪がない。そこにイルミネーションの光が当たり海へと繋がっていく、という場面を良く纏めた。 |
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○
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省 吾 *
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雪洞に浮かぶ夜桜大岡川花びら舞いて盃に落つ |
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評)
夜桜に纏わる美しい光景を巧く纏めて印象鮮明な一首になった。「雪洞に浮かぶ」桜と言う所が見どころである。その花びらが盃に落ちてくるのだ。 |
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佳作 |
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○
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鈴木 政明 *
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田や家を覆いて雪のしんしんと人影のなき里に降りたり |
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評)
冬の夜、ただしんしんと雪が降る。田も家も覆い尽くすように雪が降る。そんな静寂な時を「人影のな」い里に降り続いている、と最後まできっちりと詠った。 |
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○
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夢 子 *
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戯れにおぶわれてみる君の背は暖かくしてほの懐かしい |
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評)
チョットした悪戯心で負ぶわれてみたのだが、君の背は暖かかった、そして仄かに懐かしいあの時を思い出した、というのである。「仄かに懐かし」の纏めの方が良かった。 |
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○
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菫 *
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子等巣立ち二人向き合う夕餉にも君はスープをたっぷりと煮る |
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評)
子ども達が皆独立して、今は夫婦二人きりになったが、賑やかだった以前と同じように夕食にスープを多く作ってしまう、というほろ苦い感慨が籠っていて好感の持てる一首である。 |
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○
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紅 葉 *
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責任者となりて検査の始まりてみんなはわれを前に押し出す |
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評)
職場などで、責任ある立場になり、仕事での検査が始まった時に皆にどうぞどうぞ、と前へ押し出され少し面映ゆい気持ちのままにいる作者が良く出ている。 |
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○
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石川 順一 *
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昇降機一階二階三階と辿り着く地が即本屋前 |
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評)
面白い歌である。こんな場面は多くの人が経験することで、その意味でもこの題材を取り上げたのは手柄と言えよう。「即本屋前」の結句がなかなか良い。 |
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○
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まなみ *
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アイフォンでレストランを探しメニュー見て指先ひとつで予約も済ます |
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評)
コンピュータで何でも出来てしまう現代を冷静に見て詠っている。「指先ひとつで」と言う所に作者の驚きがあったのだろうが、この歌も現代を如実に表現していて興味深い。 |
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● |
寸言 |
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今月の歌は、手際よく場面を切り取って的確に表現した作品が多かった。良い事である。まずは、題材のどの部分に気持ちを動かされたのか、を整理して、その気持ちを素直に表現するには、どんな工夫が必要かを考えると巧く纏まると思う。また、題材でも、現代を切り取った歌が何首か見られて心強い思いがした。
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