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(2016年11月) < *印 新仮名遣い > |
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八木 康子(新アララギ会員)
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秀作 |
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○
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時雨紫 *
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知らされし一週間の夫の留守嬉しさこみ上げつと背を向ける
空港に夫見送りて滑り出すわが手の中のひとりの時間 |
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評)
短歌を作ることを楽しんでいる作者のわくわく感が伝わります。その熱気が読者の作歌意欲を刺激するほどに。2首目は改稿に集中して見事に会心の作となりました。 |
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○
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ハワイアロハ *
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わが作るあまたの料理を食べ尽くす授乳マシンと化したる娘は
Gを受け飛び発つ機内に赤児らの泣く声響き旅は始まる |
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評)
一首目。まさに体験あっての迫力満点の表現、力強さに圧倒されます。多くの人が経験したり傍らで見たりしているはずの事なのに、今まで出会ったことのない切り口で斬新です。
2首目も、心の目がしっかりしていて状況を全身で受け止める作者の五感が効いています。 |
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○
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金子 武次郎 *
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父母偲ぶ歌を詠みつつ思いたり子に偲ばるる我でありしか |
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評)
80年の来し方を思い、つぶやくように詠って共感を呼ぶ作です。
出会ったばかりの川柳ですが「今までの私でできている私」が浮かび、重ねてしみじみと鑑賞しました。 |
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○
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もみぢ
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坂道を下る幼の三輪車追ひゆくわれの鼓動高鳴る |
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評)
一読鮮明、胸にまっすぐ飛び込んでドキドキ感まで共有できる歌、改稿も的確でした。平明に着実に詠んで作者の足の動きまで浮かびます。 |
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○
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かすみ *
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木犀の下に散り敷く花あまたスポットライトか庭はステージ |
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評)
真剣に取り組んで吸収しようというまっすぐな姿勢と若さのまぶしい二十日間でした。感じたことを自分の言葉で素直に表現することが何よりです。 |
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佳作 |
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○
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紅 葉 *
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休むより仕事がしたい仙台へ出張決まりうきうきとおり |
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評)
さらっと詠って、思うよりずっと多くの人の同意を得る歌だと思います。
「究極はSuica一枚あれば良い都心に行って戻る一日に」も現代人の身軽さが端的に表現されて捨てがたい味がありました。 |
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○
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夢 子 *
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いつまでも生きるつもりで生きているハワイの家にうららうららと |
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評)
屈託なく前向きの明るさが身上の作者、軽やかな歌は定型のリズムに乗せるのがこつです。
その意味で「ヴィーナスに見えぬともなし老眼で湯けむりの鏡に見るわが体」も面目躍如。 |
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○
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かすみ *
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生きていい夜明けの見えぬ病床のカーテンにほのか暁の色
農道に咲く露草の澄む青にかがみてしばし心を放つ |
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評)
竹久夢二の抒情画を彷彿させるような雰囲気があります。読者にわかるように、普通の言葉で、焦点を絞って作り続けてください。 |
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○
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金子 武次郎 *
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庭隅に生りたるぬかごを炊き込みし朝餉に里の味を噛みしむ |
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評)
日常の小さな幸せを歌にするのは案外難事かもしれません。その分、できた時の達成感は血流までよくしてくれる気がします。 |
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○
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鈴木 政明 *
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秋雨を運ぶ雲間に月出でて清しき光笹の葉照らす
昼さなか汗滴らせ過ごししが竹の葉群に涼風の吹く |
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評)
やや古い感じの声調が気になりますが、季節の移ろいを丁寧な描写で切り取って好感が持てます。人物の登場する作も待っています。 |
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○
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もみぢ
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カンテラの仄かに灯る木々の間の外湯にひとり鉦叩き聴く |
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評)
とりあげた素材が具体的で過不足なく、言外に作者の心象が浮かびます。 |
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○
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省 吾 *
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通勤の途上に会いし幼子の笑顔に吾の顔も綻ぶ |
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評)
見逃しがちな瞬時に目を止め、よどみなく自然に詠んでいます。結句は臨場感のある現在形にしました。「酔いどれて酔い疲れても酔いもせず酔えば酔うほど酔いぞ醒めゆく」は、上の句・下の句を生かして2首にするのはどうでしょう。それぞれにピッタリくる思いや状況がある日突然浮かんでくるかもしれません。 |
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● |
寸言 |
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75・57のリズムに魅せられて、締め切りに追われながら、それでも何とかできた気がして一瞬にせよ高揚感のようなものに満たされる、その繰り返しの月日に今は有難ささえ感じています。
喜怒哀楽・生病老死のすべてが短歌の素材と思えば、不思議ですがそれも冷静に受け止められる気がしています。
皆さんとの出会いも僥倖です。短歌は紙と鉛筆さえあれば・・・とよく言われます。これからもご一緒に歩んでまいりましょう。
八木 康子(新アララギ会員)
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