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(2017年3月) < *印 新仮名遣い > |
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大窪 和子(新アララギ編集委員)
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秀作 |
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○
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コーラルピンク *
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娘(こ)の選びしわがセーターはコーラルピンク袖を通せば春のざわめき
夜更けてふと手にするは短歌の書「やってみれば」の文添えられて |
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評)
短歌を始めたばかりと感じられる作者。楽しい気分が弾けるようで心惹かれた。二首目は歌を作るきっかけとなった作だろう。このときを忘れず、続けられますように! |
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○
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ハナキリン *
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冬空に折れ線グラフが浮びくる針葉樹の天辺結んでみれば
ひと口分残りし紅茶が助手席をあなたの指定席のままにしている |
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評)
冬の樹林の上に見る折れ線グラフ、柔かい感性に魅力がある。そして「あなた」の指定席。面白いところに目をとめて、さらりとした相聞歌になった。新アララギに入会ご希望とか、ぜひどうぞ! |
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○
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ハワイアロハ *
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父母の施設の料理はいかならむ娘(こ)と語りつつサラダを混ぜる
赤ワインの深き色合い透かし見て命への不思議な思い湧き来る |
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評)
娘さんと一緒にご両親の暮しを思いながらの料理。結句の「サラダを混ぜる」という具体的な表現がが作品を生かしている。二首目は独自な感覚でワインを見詰める目がいい。 |
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○
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かすみ *
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症状の回復兆し道行けば梅のつぼみのひとつほころぶ
風の中を自転車に乗る喜びはわれの生きいる確かな希望 |
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評)
一首目の下の句、梅のつぼみに寄せて静かな喜びが伝わり、作者のやさしさまで感じられる。二首目は元気になって前を向く姿、読む者も励まされるような歌になった。 |
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○
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太等 美穂子 *
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凍てつく夜腕絡ませる散歩道踏む雪の音静かに響く
星空を望遠鏡に見る君の冷たそうなるその手に触れぬ |
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評)
寒い雪の中のきりりとした相聞歌が味わい深い。一首目はほとんど直すことなく出来上がっていた。二首目は少し苦労して仕上がった。並べてみるとなかなかいい連作である。 |
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○
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時雨紫 *
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何事もなんとかなると歩み来て胃の突然の痛みに戸惑う
口癖の「なんとかなる」が「だいじょうぶ」に変わりし日より老いを感じぬ |
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評)
健康に頑張って暮していた作者が思いがけない病に戸惑う、率直な一首目。そして「なんとかなる」は前向き、「だいじょうぶ」は少しトーンを落として自分を見つめる。歳月の移りを独自の表現で掬い取っている。 |
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○
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仲本 宏子 *
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余命五年のがん宣告に生きる友心の支えをどこに持ちしや
主イエスに行き場なき悩み打ち明けて事の移りに主のみ声聞く |
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評)
人は何かを心の支えとして生きる。そのことを、友に、また自分自身に問う作者。信仰は神との対話であろう。そして自ら歩む中に神の声を聞く。人生の重さの感じられる二首である。新アララギでもよろしく! |
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佳作 |
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○
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国分 和生
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介護度の3となりたりひた思ふ妻苦しますことなく逝かむ
体重を減らさぬだけの食摂りて今宵ももたれし胃をいたはりつ |
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評)
きれいな文語表現が快く感じられた。言葉の流れも滞りがない。一首目、作者の愛情に裏打ちされた覚悟が伝わる。二首目はご自身の今を確り捉えていて説得力のある作。 |
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○
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菫
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雛鳥は巣から小さな弧を描きハイビスカスを揺らしてとまりぬ
風凪ぎし明るき午後に母と子は羽すり合はせ飛び立ち行けり |
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評)
敢えて二首を逆に置いてみた。鳩の巣篭りの歌がぬけたので、これだけでは母と子が鳩の親子とは分からない。こうすれば少なくとも小鳥であることは分かる。連作として置く場合難しいところ。愛らしい楽しい歌。「弧を描き」「羽すり合わせ」がいい。 |
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○
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鈴木 正明 *
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揺らめきて光り流れる水面に透明という色を思えり
水鳥の数多集まる多摩川の向こうに聳える高層ビル群 |
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評)
透明な川の水を色として捉えたところ発想のに面白さがある。ようやくまとまったという感じだけれど。二首目は水鳥、多摩川、遠景のビル群と大きな景をとらえた佳作になった。 |
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○
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夢 子 *
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葉は黄ばみ小さく花の咲いている寂れし庭を風の吹き行く
芽が出たと虫が付いたと君を呼び花作りした日々は過ぎたり |
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評)
「さびしい」という言葉の表現はないけれど二首の背景にある作者の心のさびしさが感じられるところがいい。季節が移り変わったのか、君を失ったのか分らないが、それはいいでしょう。 |
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○
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石川 順一 *
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スキーに行くと姉は突然現れてやたらとチャックを閉めて旅立つ
冷凍食品温めて居て火傷する蓋を取る時油断して居て |
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評)
日ごろ別々に住んでいる姉が突然実家に戻って来て旅支度をする有り様、電子レンジで火傷するようす、それぞれ実感がある。漢字を無意識に多用しないように。漢字を使うか平仮名にするかによって作品の印象が変わる場合があるので。 |
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○
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原 英洋 *
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薄雲も白い吐息も雪山の姿も浮かぶ月影のなか
帰路につく雪舞う山に陽が差せば会社の雪かき思いだしたり |
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評)
一首目は幻想的な雰囲気のある歌。二首目、会社の雪かき大変なんでしょうね。その辺がちょっとわかるともっと魅力のある歌になると思う。
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○
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紅葉 *
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ラジオから聖夜の歌が聞こえ来て動かぬ腕をそっと動かす
枯れた葉を風に散らして黄の芽見せミモザは次の春に備える
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評)
一首目、まだ未完成のまま。これでは腕は自分の腕のように感じられる。「ラジオから」はいらない。「聖夜の歌が聞こえる夕べわが父の動かぬ腕をそっと動かす」これで父を介護する歌になる。二首目は少し内容が淡い。 |
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寸言 |
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昨年の8月、新アララギは「入会のしおり」という小さい冊子を作りました。結社に気軽に入会できるよう、お誘いのための冊子です。ご希望の方にはいつでもお分けしますので、ご連絡ください。
その中から、新アララギ代表雁部貞夫の「はじめに」という文章の一部を引いてご紹介します。
短歌という文芸は人間の体温に最も近い、誰にも親しめる文芸です。新しい時代を担う人々と共に、私たちは混迷する現代社会の中で、何が真実なのかを常に求め、「人間の叫び」を交わし合いたいと思います。志ある人々の、本会への参加をこころからおまちしております。
大窪 和子(新アララギ編集委員)
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