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(2017年4月) < *印 新仮名遣い > |
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小田 利文(HP運営委員)
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秀作 |
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○
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かすみ *
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独りきり遅霜踏みて歩む朝ぼきりと弾ける音聞こえたり
紅白の梅並ぶ丘に登り来て笑いいる父よ欠けた歯見せて |
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評)
一首目、下句の客観的な表現により、作者の内省的な心情がよく表れている。二首目、父親への温かな眼差しが感じられる一首となった。 |
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○
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時雨紫 *
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生花と帯のコラボに挑まんと壺に帯巻き流木に生ける
スカイプにて師より添削賜りぬ今朝書き上げし仮名条幅に |
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評)
二首ともに題材が斬新である。一首目は下句の流れるような調べが目を引く。二首目、「スカイプ」と「仮名条幅」という、かけ離れた印象を受ける言葉が、一首にうまく収まっている。 |
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○
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太等 美穂子 *
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雪解けに春の気配は感ずれどこぶしの花芽は未だ固しも
踏み入りし白き野広く何もなし雪面固きは春の知らせか |
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評)
一首目、下句の丁寧な観察により、季節感が良く表現されている。二首目、「雪面固き」に作者の発見があり、締まった作品となった。 |
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○
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紅 葉 *
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携帯を持ちて臨みし会議にて父逝くの報受けて口閉ず
右左ひとかきごとに揺らぐ身を押し出していく前へ前へと |
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評)
一首目、上句に状況が、下句に作者の様子がそれぞれに簡潔に表現され、それがうまくつながっている。二首目、「弔いの朝」における作者の心情が、泳ぐという具体的な動作に込めて詠まれている。 |
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○
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もみぢ
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四世代揃ひて写るわが喜寿の記念写真を今日も取り出づ
旅に出ることの減りきし吾が今日はハウステンボスネットにて巡る |
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評)
一首目、読んでほのぼのとさせられる作品。「今日も取り出づ」という、抑えた表現が良い。二首目「ネットに巡る」を「ネットにて巡る」として採った。共感できる作品。 |
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○
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コーラルピンク *
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遠き日に姉と摘みたるヨモギの葉手折れば祖母の草餅香る
洗濯のズボンに見つけし道の小石娘のハンカチにくるまれており |
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評)
一首目は過去に過ごした家族の追憶、二首目は現在の家族との日常が詠まれている。一首目にも作者の思いが良く表れているが、やはり現在を詠んだ二首目の方に惹かれる。小石がハンカチにくるまれていることを見つけた感動を十分に感じることができる。 |
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○
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ハナキリン *
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「ちゃんと朝起きられましたか」初出勤の君に吹く風暖かくあれ
前を行くドライバーネームはサイトウさん願おう今日こそ再配達なき日を |
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評)
一首目、作者の優しさが感じられるセリフをそのまま上句に使用し、成功している。二首目、社会で話題になっている「再配達」を取り上げ、興味深い作品となった。下句は「再配達なき日なるを願う」「再配達なき一日(ひとひ)であれよ」くらいで良いでしょう。 |
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佳作 |
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○
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夢 子 *
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結婚をしたい気持ちとしたくない気持ちのはざまに十年過ぎぬ
会い初めし頃には気にも留めざりし年の差気になる時経つほどに |
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評)
二首ともに、作者の深い思いを詠みながら、整った作品に仕上がっている。 |
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○
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仲本 宏子 *
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さりげなく友の言葉を受け止めしが胃は正直にキリリと痛む
食卓にただ一人なる幼子よ集いし皆の笑顔集めて |
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評)
一首目、下句のストレートな表現により、共感の得られる一首となった。二首目、下句からはその場の光景が浮かんでくるようだ。 |
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○
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ハワイアロハ *
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久々の電話の声に沈みいし心の澱のかき混ぜられぬ
「貴女とは友達付き合い出来ない」と打ちし画面を指はさまよう |
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評)
一首目、深い心情をすっきりとした一首にまとめることができた。二首目、「打ちし画面を指はさまよう」に作者の工夫が感じられる。 |
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○
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鈴木 政明 *
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付き合いにて午前三時となりし子か戸を開け静かに静かに入り来る
車窓には神宮の杜の現れて緑はよぎる山手線にも |
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評)
一首目上句、すっきりとまとまった。下句に子の優しさが表れている。二首目、作者のほっとした思いがよく伝わってくる。 |
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○
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原 英洋 *
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静けさは部屋に戻りぬ遠のきし列車の音も微かになりて |
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評)
列車の音の遠のく様をうまく表して、部屋の静けさの伝わる一首となった。 |
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○
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来 宮 *
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ほっこりと生きてぽっくり逝きたしと水掛地蔵に祈り捧げる |
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評)
上句の作者のストレートな思いを、下句の客観的な描写が支え、共感できる一首となった。
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寸言 |
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自然を凝視し丁寧に詠んだ歌、家族への深い思いを抑えた表現で詠んだ歌、意欲的な題材を流れるような調べで詠んだ歌、等々。様々な心惹かれる作品と向き合うことのできた一ヶ月でした。
改稿を重ねるごとに良くなっていく作品に、皆さんが持っている可能性を感じました。次回の出会いを心から楽しみにしています。
小田 利文(新アララギ会員)
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