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(2017年6月) < *印 新仮名遣い > |
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米安 幸子(新アララギ会員)
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秀作 |
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○
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かすみ *
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十年の療養の日は吾を変え君を変えるかいつまた会わん
山笑いきらめく河の悠々を見つつ自転車で留(とめ)大橋渡る
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評)
前の歌には把握のすばらしさがあり、後の歌には備わった感性がみえ、これからが楽しみな作者である。 |
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○
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コーラルピンク *
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息をのむ打音に絡む叫び声我が心救いしプリンス逝く |
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評)
上の句の力強さを受けての、「我が心救いし」という把握がよく、その大幅な破調をも呑込むほどの説得力がある。初稿のままである。 |
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○
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鈴木 英一 *
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シュレッダーサクサク紙をふるわせ飲み込んで吾の記録を消滅したり |
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評)
いとも簡単に事が運びかねない現況の怖さを提示していて、良い作品だと思う。 |
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○
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時雨紫 *
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マネキンの胴を抱き寄せ帯締めるわれを見かねし夫が助けぬ
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評)
ウインドウ・ディスプレイの場面かもしれない。奮闘している様子を見るに見かねての手助けが微笑ましい。言葉の調子にも弾みがあってなかなかの出来栄えである。 |
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○
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仲本 宏子 *
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古稀過ぎて生きる姿勢の代え難きに短歌はそれをなさしめんとす
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評)
短歌は生活の指針となるのではないかと気付いた瞬間を詠み優れた歌となった。遅い出発からの真摯に取り組む日々があればこそ、気付き得たかと思われる。「五七五と指折りながら一日を振り返りつつ眠りを待ちぬ」ともあり、「歌は生活そのものである」ことにも気付かれたのであろう。 |
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佳作 |
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○
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金子 武次郎 *
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外套の襟たて手先に息をかけ鉛筆走らしし受験は遠し
吾が受験六十五年前亜炭ストーブ焚く試験場なりき
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評)
石炭にも劣る亜炭でストーブを焚いた六十五年前の試験場の情景は、作者ならずとも感慨深いものがある。 |
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○
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太等 美穂子
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未だ暗く稜線見えずもやがて来る石竹色の朝あけを待つ
桜咲く日も近づきて圃場へのトマトの植えつけ間近となりぬ |
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評)
二首からは、高冷地の農家らしいことが読み取れて清々しい感じがつたわる。「石竹色の朝あけ」という感じ方には、若者にはない落ち着きが窺えて面白いと思った。 |
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○
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紅 葉 *
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新人が来ると部長に告げられて不本意ながら頭を下げぬ
懸案に決着つけば父母と延期していた旅行に行かむ |
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評)
カラッとした読みぶりが板に付いてきた作者。二首とも成功している。 |
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○
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ハワイアロハ
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満開の桜が見えると耳元に告ぐれば母は少し目を開く (旧仮名)
療法士に支えられつつ一歩いっぽ母は歩きぬ十メートルを (新仮名) |
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評)
母君が徐々に快復に向われるまでを丁寧にうたって、心温まる一連であった。 |
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○
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来 宮 *
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二十年この花のもとに宴するこののち会えるは幾たびならん
去年の宴盃交しし友逝くと伝える君も気弱くなりぬ |
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評)
彼の吉田正俊の歌境と似通うことに気付いた。そのうえで、雰囲気に流されないようにと願った。いかなる場合でも沈思黙考から生まれた歌なのである。 |
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○
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夢 子 *
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ほろ酔えば君が私か私が君かおぼろおぼろに陽が沈みゆく
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評)
心を解放して言葉の調子もよく、その場の情景がみえるようである。歌としては、「古家の屋根葺き替えて後十年生きるつもりの八十三歳」の心意気を、尊重していたが自薦から漏れていて残念であった。
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○
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ハナキリン *
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傘さして娘(こ)ら笑いつつ坂下る大輪の花の揺るるごとくに
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評)
雨の日であろうか、たのしそうに連れ立って坂を下る娘たちの傘が、大輪の花のようだと詠う。いささか安易な比喩ではあるが。 |
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○
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原 英洋 *
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暖かな春の限りに道端で犬も欠伸し噛み締めるかな
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評)
今回ただ一首の投稿であったが、根気よく三稿まで重ねた上での自薦作。犬もとすればわれもとしないと落ち着かないことを、理解してほしかった。 |
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● |
寸言 |
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今回は意欲的な作品が多いと感じた。
「歌は全人格的なものであり、人間として相当にできていることが必要。」「作歌を始めるに遅くなり過ぎと言う心配はひとつもない」との、土屋文明の言葉を噛み締めながら、時間をかけて、選にあった。つぎに、「アララギ」・「新アララギ」の会員として、長く歌っていらっしゃる方の作品を転載させて頂きます。
平凡で楽しい一生と思ひしが老いて失明の日がやってきた
新しきリルケ詩集をわれは買ふまだ残りゐる老いの青春
黒木 実 「新アララギ」2017年6月号より
米安 幸子(新アララギ会員)
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