作品投稿


今月の秀歌と選評



 (2017年8月) < *印 新仮名遣い

小田 利文(HP運営委員)



秀作



かすみ *


差し迫るイスラム恐怖症(フォビア)をネットにてレポートしたり砂漠の友は



評)
イスラム(イスラモ)フォビアという現代的な言葉を取り入れ、テレビ等のマスコミから得た情報ではなく、「砂漠の友」のレポートを対象に詠み、独自性の高い作品となった。



コーラルピンク *


空き箱で望遠鏡を作りし娘未来が見えるといいて覗きおり


評)
家族の日常の一部が素直に表現されており、ほのぼのとさせられる。



まなみ *


泥鉢からすうっと伸びた茎の先に蓮の蕾が膨らみ初めぬ



評)
上句の把握が良い。「泥鉢」という言葉が一首の中で生きている。  



鈴木 栄一 *


さまざまな残雪の型纏(まと)いたる至仏山見ゆ我が目の前に



評)
雄大な風景を丁寧に表現して成功している。「残雪の型纏いたる」という把握に個性が感じられる。「纏(まとい)たる」は「纏(まと)いたる」としたい。



金子 武次郎 *


食欲の失せし己を叱咤して朝昼晩の卓に向かいぬ



評)
高齢の作者の現状について、飾ることなく正面から向き合って詠まれており、感動を覚える一首となった。



仲本 宏子 *


六十年隔てし会いに学び舎の廊下のきしむ音よみがえる



評)
いろいろと言いたいところを整理して、作者の感動の中心がよく表現されている。一読して情景が浮かんでくる作品となった。



紅 葉 *


疑いに逃げる姿の浮かびくる時代は近い共謀罪通過



評)
「共謀罪通過」という直近の出来事について正面から取り組み、作者の危惧がよく伝わる作品となっている。



ハワイアロハ *


日本語と英語に進む結婚式ハワイの海にドレスが映える
滑らかに英語を話す花嫁はニューヨーク生まれのダイナマイト


評)
晴れやかな場面が明るく詠まれており、読んで楽しい作品となった。2首目「ダイナマイト」が生きている。


佳作



来 宮 *


池に注ぐ陽光受けて石の上に押し合い圧し合い甲羅干す亀
緑濃き頂隠す霧立ちて足元確かめ下る山道


評)
一首目、静の中の動を感じさせる作品。「押し合い圧し合い」という言葉が生きている。二首目、上句の把握に工夫が感じられて良い。



時雨紫 *


眉きりりと笑み投げかける男振りその面影を口元に探す
杉形の茶の山掬う二杓に思いを込めて今日の茶点てる


評)
一首目、ユーモラスな内容だが家族への愛情もよく伝わってくる。二首目、茶道をよく知らない人にもその場面が伝わるような一首となった。



太等 美穂子


こつこつとひと鍬五寸草取りて振り返りみれば作物(さくもの)凛と


評)
作者の堅実な仕事ぶりと、作物の成長に対する喜びがよく表れている。



夢 子 *


太陽の背に来る席を選びたりなるべく皺の目立たぬように
風吹けば見える白髪の気になりて洒落た帽子を探して歩く


評)
いずれも自身の老いを正面から捉え、前向きに暮らしておられる様子がよく伝わってくる。



原 英洋


涼しげに夜雨がさざめく部屋のなか滴り落ちるリズムを聴きをり



評)
静かな部屋の中で雨のリズムを楽しむ作者の様子がよく伝わってくる。



ハナキリン *


のれん越しに休まず動く腕見えて喜の家の蕎麦の一枚あがる
カウンター越しに並びし四つの丼(どんぶり)に揚がりし海老の尾の揃い立つ


評)
一首目、働く人の一瞬をよく捉えている。二首目、結句の表現に勢いがあり、魅力を感じる歌となった。



コーラルピンク *


じゃがいもの皮剥きながらきくサルサ溢れるリズムにかの日のハバナへ


評)
作者の日常の一コマがよく表されており、読んで楽しい気分にさせられる。



紅 葉 *


運動に疲れた体をひっそりと休めておりぬ平和な国に


評)
平和のありがたさをかみしめている様子が詠まれている。「共謀罪通過」の複雑な思いも込められているだろうか。



まなみ *


人気なき退蔵院の石庭は線と円との調和の空間


評)
退蔵院の石庭の様子を、下句の丁寧な表現により表すことに成功している。



金子 武次郎 *


こぶしほどの蕾たちまち開きけり白木蓮は香りも高く



評)
白木蓮の開花の様子がよく表れた、気品を感じさせる一首。



仲本 宏子 *


人生を日舞に生きし友の背は静かな内に貫禄を秘む


評)
一芸に秀でた人の背中が語りかけるものを捉え、的確に表現することができた。



鈴木 栄一 *


木道の陰にて見つけし座禅草たった一株雪残る中に


評)
大自然の中で出会った、一株の座禅草。客観的な描写の中に、作者の喜びを感じ取ることができる。



かすみ *


天気雨日向ぼっこの小蛇いて何を思うや太陽見上ぐ


評)
自然の中の何気ない一コマを捉え、ほのぼのとした魅力を備えた一首とすることができた。


寸言


 時事を自身に引き付けて詠み魅力ある歌、身近な自然を詠んだ愛らしい歌、大自然に向き合って詠んだ雄大な調べの歌、家族や友への深い思いを詠み共感を覚える歌等々、様々な内容の作品に共に取り組むことができました。
 皆様のこれからの更なる上達を楽しみにしつつ、次回の出会いを待ちたいと思います。

小田 利文(新アララギ会員)


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