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(2018年4月) < *印 新仮名遣い > |
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内田 弘(新アララギ会員)
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秀作 |
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○
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めいきょん *
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名を呼べば応えてくれる犬が居るお前に癒され老後も楽し |
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評)
素直な気持ちの出た気持ちの良い歌。老いを積極的に捉えて詠って成功した。 |
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○
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鈴木 英一
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羽黒山の分厚き屋根の合祭殿神々は夜に酒盛りせしか |
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評)
下の句の特殊性がこの歌を目立った歌にした。「合祭殿」での実感が無理なく詠われた秀歌。 |
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○
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中野 美和彦
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銃規制せぬ国の核に守られて福井の海辺に聳ゆる原発 |
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評)
核に守られている日本、原発の危険を冷静に詠った歌。自分の住む地に引きつけて告発している歌で、成功している。 |
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○
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ハワイアロハ *
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時差ボケの治らぬうちにまた母の施設へ戻り着替えを手伝う |
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評)
初句が良い。日本の施設にいる母を見舞い、着替えを手伝っている作者の気持ちが丁寧に詠われて良い歌になった。 |
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○
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すみれ
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絹物を日々縫ひくれし亡き母に謝りながら糸を引き抜く |
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評)
亡き母への追慕の心が素直に、気負わずに表現されて詠った点を評価する。特に「謝りながら」に気持ちが籠っている。 |
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○
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菫 *
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殉教者の如き歩みは粛々と広場を進む難民の列
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評)
冷静に難民の列を自分の視線で詠った所が優れている。隊列がまるで殉教者のように思えたと言う所が見所である。 |
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○
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ハナキリン *
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コペル君と「どう生きるか」を問いながらいまの時代を確かめてゆく
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評)
「いま」を意欲的に捉えて歌にしたところを買った。何時も我々は「いま」を意識的に詠わねばならない。自分に引きつけたところが成功した要因である。 |
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佳作
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○
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原 英洋 *
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襟元にからし色したマフラーの残る寒さを添える歩行者 |
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評)
「からし色したマフラー」に焦点を合わせて春の寒さを詠ったのが特徴的である。目の付け所が良い。 |
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○
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くるまえび *
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あとひと月の米寿祝いも待ち切れず友は静かに息を引き取る |
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評)
友の無念さを淡々と詠って悲しみが増幅されている。無駄な表現がない佳詠である。 |
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○
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つはぶき
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長く歩くを叶はぬ夫は今もなほ「旅」の幾冊を抱へて帰り来 |
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評)
長く歩くことが難しくなった夫が旅への想いを持ち続けて、旅行誌の『旅』を買ってくることを微笑ましく見て居る心が温かい。「旅」は雑誌なので表記は『旅』である。 |
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○
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夢 子 *
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骨密度若者並みと告げられて喜び帰る八十四歳 |
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評)
自分の年齢よりも若々しい検査結果に素直に喜んでいる作者の心が生き生きと詠まれている佳詠である。 |
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○
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紅 葉 *
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だいじょうぶなのかニッポン税収と同じくらいの借金ある国 |
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評)
思いの丈をてらわずに素直に、口語調で「だいじょうぶなのか」と詠んだのが良かった。 |
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○
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まなみ *
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今朝早く羽化したばかりのモナーク蝶この土砂降りを何処に過すや
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評)
蝶の羽化を詠って特徴のある歌となった。結句に蝶に対する優しい思いが込められている。 |
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○
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時雨紫 *
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孫の目にいかに映りしや友の犠牲『泣いた赤鬼』を静かに閉じぬ |
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評)
孫との交流が目に見えるようで微笑ましい。「静かに閉じぬ」が収まり良い結句となった。 |
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○
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かすみ *
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健康のためと始めしぬか漬けの塩分気にする夕べの厨 |
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評)
日常の事柄を巧く捉えて歌にしたのは手柄である。「塩分気にする」の句が生きている。 |
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○
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文郁 *
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家を思い病窓よりの夕茜骨折の足しみじみ眺める |
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評)
入院生活の不安を茜を見ながらしみじみとした心で詠っている所に実感があって良い歌になった。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
今月は多くの皆さんの意欲的な作品が並び、質の高い月になったのは良かった。秀作と佳作の違いは余りない。どちらを秀作、佳作にしても良かったが、一応完成度の高い歌を秀作に選んだ。
また。意欲的な作品、「いま」に敏感に反応している作品はやはり目立った。題材に積極的に立ち向かい、自分の中で十分咀嚼して、テーマに据えて詠った歌が何首かあったが、印象に残った。特に「老い」を詠った歌に単に嘆くのではなく、寧ろ現実を前向きに捉えて詠った歌も複数あって、良かった。最後まであきらめずに、詠い切った皆さんにエールを送りたい。
内田 弘(新アララギ会員)
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