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(2018年7月) < *印 新仮名遣い > |
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小田 利文(HP運営委員)
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秀作 |
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○
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菫 *
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道裂けてマグマ吹き出す通りには熱風に揺れる一本の椰子
潮溜まりに遊びし湾も溶岩に埋め尽くされたと語る人あり |
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評)
日本でもニュースで伝えられた自然災害を実体験として詠み迫力がある。大げさな言葉ではなく、作者が捉えた事実そのままを歌に詠むことで十分に感動を伝えることができるということを、この作品から学ぶことができる。 |
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○
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まなみ *
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芝の上にフラのスカートを丸く広げメイデーショウを待つ子供たち
始まりし祈りの詠唱「エホマイ」に姿勢を直して聞き入る観衆 |
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評)
ハワイのメイデーを詠んだ魅力ある連作。一首目、上句の把握が良い。二首目、上句の表記に少しだけ手を加えて採った。下句を改稿2から推敲して更に良い作品になった。 |
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○
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さやか
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蛍篭編みし思ひ出語りつつ麦の穂の実りを夫と見て過ぐ
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評)
「蛍篭編みし思ひ出」という作者に引き付けた題材が活きている。最終稿一首目の 思はざるところにカーラー芽吹きゐて「何処からきたの」と水を注ぎぬ も作者の声が聞こえてきそうで良い。 |
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○
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時雨紫 *
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正座できぬわが苛立ちは茶の味にも顕るるなり茶筅通して |
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評)
結句の「茶筅通して」に作者の実感が籠められている。最終稿三首目「膝を伸ばし茶筅を振りし朝の茶も夫は飲み干すいつもと同じく」は微笑ましくも感じられた。 |
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○
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くるまえび *
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故郷を偲びて謡う「富士山」はハワイの庭に広がり渡る
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評)
故郷日本の象徴とも言える「富士山」というタイトルの詩を居住地ハワイで吟じる作者の姿が、最終稿一首目「静かなる庭に座りて吟じたり我が丹田に力を込めて」と併せて、良く伝わってくる。 |
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○
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つはぶき
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三月後の退院を信じいくたびも指折り数ふ痩せたるゆびに
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評)
最終稿一首目「同じことを問ひくることの多くなりし姉との会話にしばし付き合ふ」と同じく、初稿から稿を重ねる度に前進があり、良く整った作品となった。 |
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○
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かすみ *
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水滴は硯の上でじわじわと粘度を増して墨汁になる
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評)
墨をするという自身の行為に焦点をあてて丁寧に詠み、説得力ある一首となった。 |
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○
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中野 美和彦
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妻の愛でしいぬのふぐりの咲く畔に田雲雀鳴くをひとり来て聞く
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評)
妻君を詠んだ挽歌の中でこの作品が最も心に沁みてくるものがあった。「いぬのふぐり」という固有名詞が生きて働いている。 |
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○
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ハワイアロハ *
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税関の探知機にまたも反応す医師にもらいし我が股関節は
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評)
股関節が「医師にもらいし」人工のものであるため、探知機に反応してしまうという、当事者でしか体験できないことを詠み、説得力がある。 |
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○
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文 雄
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弟は老いて動けず一町歩の田畑を荒るるにまかせてゐると
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評)
郷里の厳しい現実を巧みに詠み、「三代を継ぎて暮らしし一町歩の田畑を遂に耕す者なし」と共に読み応えがある。 |
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佳作
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○
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鈴木 英一 *
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山深き村に歌舞伎の舞台あり声の掛かるも石段の席より
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評)
旅先での光景をうまく捉えている。下句の描写により、生き生きとした作品となった。 |
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○
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原 英洋 *
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ミュシャの絵の花を思わせハリエンジュ堤防沿いに咲き撓りたり |
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評)
ミュシャの絵が好きな作者なのであろう。景色を丁寧に描写し、魅力ある一首を詠むことに成功している。 |
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○
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紅 葉 *
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沖あいの小さく浮かぶ白波に「八月の鯨」の場面が浮かぶ |
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評)
「八月の鯨」を観たことがない読者にも訴える魅力を持っている。上句の丁寧な描写が良い。 |
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○
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夢 子 *
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老いの身に痛みの引く日無くなりて前向き思考も出来ずなりたり |
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評)
高齢者の現実に正面から取り組んで、共感できる一首。上句の表現が特に良い。 |
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○
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山水 文絵 *
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孫の寝し小さき布団のくぼみにもしばし見入りぬ干す手を止めて |
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評)
「小さき布団のくぼみ」に深い愛情が感じられる。一首のリズムに魅力を感じる。 |
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● |
寸言 |
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今月の投稿者全ての方から最終稿の提出があり、その選歌にあたっては、大変であると同時に楽しさも覚えた。初稿から一緒に取り組んできた作品の数々は、ここに取り上げなかった歌もまた、私にとっては心引かれるものであった。
改稿ごとに上達の感じられた皆さんの歌がこれからますます輝いていくことを願って止まない。
小田 利文(新アララギ会員)
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