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(2018年8月) < *印 新仮名遣い > |
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小谷 稔(新アララギ選者)
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秀作 |
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○
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菫 *
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短夜を眠れず船のベランダにアラスカの冷気深く吸い込む
湾に浮く氷塊の数増してきて行く手に青き氷河輝く |
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評)
アラスカの船旅詠、貴重な材料をよく生かしたよい旅行詠です。船のベランダという位置もよく二首目の船の動きに応じて展開する氷塊、氷河の動的な描写がとてもよろしい。 |
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○
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文 雄
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待ち待ちし書の届きしを前にして荷を解きかかるまでのたかぶり
パソコンの電源切れば液晶の面に現る暗きわが影 |
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評)
二首とも日常の普通の生活ですがその切り取りの断面が個性的です。注文した本が届いて包装を開けるまで、パソコンの電源を切った瞬間など、短い瞬間が心理的に把握されて個性的です。 |
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○
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中野 美和彦
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とよもして雄島の岩に散る波に抱くすべなき亡き妻を恋ふ
雄島の海波ゆるやかに響動
みつつ岩群に白く浜払子咲く
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評)
叙景と亡き妻を悼む抒情がひびきあっています。叙景もありふれた花でなく浜払子を採りあげるなどセンスのよさが見られます。 |
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○
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ハワイアロハ *
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ホノルルの空にくっきり虹ふたえ写真に収む病む父母のため
被災せし人の話を聞きながら涙浮かべる認知の父は |
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評)
両親ともに病んでおられる。虹の写真も病む父母ゆえにすぐには虹を見られない写真なので価値があります。認知症の父の正常な時の貴重な涙。 |
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○
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山水 文絵 *
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砥がれたる庖丁の音刈られたる芝生の緑定年万歳
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評)
定年で職から解放された夫君が活発に家事をしてくれる爽やかな感謝と喜び。包丁と芝刈を挙げて「定年万歳」で結んだ構成が成功している。 |
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佳作
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○
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時雨紫 *
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病室に姉を見舞いて藤色に爪を塗り合う窓に雨粒
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評)
ベッドの姉を見舞って藤色に爪を塗り合う姉妹のやさしい姿が印象的です。長靴で出迎えに来てくれた姉は「病む前の姉」としたい。 |
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○
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かすみ *
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先輩の展示の書道はやさしげな性には似ずに勢いのよし |
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評)
よく知っている人の諸作品に普段には見られない勢いのある個性を見つけたところがよろしい。「性」は さが と読みます。 |
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○
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くるまえび *
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カタクリは山の斜面に薄紫の花むしろなし俯きて咲く |
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評)
カタクリの花の特徴をよく観察して描写しています。「斜面」は なだり と読みます。 |
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○
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さやか *
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父さんに情求むるは虚しいと子に諭さるる齢となりぬ |
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評)
子も成長すると親の性格をよく見分けるようになって母に助言するようになって自分もそんな年齢になったことに気づく寂しさ。 |
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○
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はずき *
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「元年者」静かに眠る移民たちマキキ墓地にて仲間となりぬ |
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評)
「元年者」はハワイ特有の初期移民のことであろう。かれらも墓地ではすべての苦労も超えてひとつ仲間になっている。 |
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○
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夢 子 *
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ナツメロに乗りつつ踊るラインダンス「ユーアーマイサンシャイン」に過ぎし日偲ぶ |
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評)
ナツメロの曲に乗ってラインダンスを踊っているがその曲に過ぎて帰らぬ若き日を偲ぶ哀感。 |
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○
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原 英洋 *
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炎天に綿雲ありて山麓を涼やかに覆う影を落とせり |
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評)
真夏の炎天ながら綿雲の落とす影に一抹の涼しさを発見した。規模の大きな叙景。 |
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○
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紅 葉 *
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一週間なんて一瞬という声に振り向く今日はやっと金曜 |
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評)
通勤の雑踏の中で拾った週末金曜日の声。一週間なんてあっという間、と聞いて作者も「やっと」金曜がきたのかとほっとするサラリーマンの心。 |
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○
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鈴木 英一 *
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纏向の地は邪馬台国の都ともローカル線がのどかに走る |
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評)
奈良の旅。桜井の纏向遺跡に立ち寄った。邪馬台国の都という平凡な農村でそばをローカルの関西線がのどかに走っている。現地の今の風景を点じたのがよい。纏向は「まきむく」と読む。 |
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