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(2019年4月) < *印 新仮名遣い > |
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米安 幸子(新アララギ会員)
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秀作 |
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○
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文 雄 *
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九十二歳のわれの寿命の尽きるまで白底翳の視力保ちくるるや
血液の検査値全て正常値老体のこのけだるさは何 |
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評)
白底翳は、しろそこひと読み白内障の俗称という。
二首目「血液の検査値全て正常値」と言うことは、やはり健康維持に気を配ってこその九十二歳であられるということかと納得。「九十三の手足はかう重いものなのか思はざりき労らざりき過ぎぬ」土屋文明の歌の上の句に似通う心境であろう。初稿のままを良しとした。 |
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○
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中野 美和彦
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花のころこの土手道を弟と母を中にし海へとゆきし
母逝きしばかり弟の麻痺すすみうめくのみにて我に応へぬ |
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評)
九頭竜川の土手道。季節ごとにこの川を詠む作者の原風景かと思われる。不自由なお身体からうめくような声を発して、兄である作者に応える弟君。改稿を着実に重ねながらの心情の発露となった。 |
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○
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時雨紫 *
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託児所に四月の孫を預けにきてわれ去りがたく昼まで居たり
桐箱の孫の臍の緒に祖母われは日々祈れりと手紙を添えおく |
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評)
まだ四月の乳児なのにと、不憫にさえ思われたのであろう。帰るに帰れずお昼まで居た。二首目「日々祈れり」も甘いとは思うが、臍の尾に手紙を書き添えるという発想によって平凡を逃れたように感じる。 |
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○
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鈴木 英一 *
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壁面を木で覆いたる紀尾井ホールに「フルートとハープの協奏曲」を聴く
颯爽たる若き指揮者の「新世界より」覚えしメロデイーに我も身を揺る |
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評)
改稿を重ねての二首、颯爽たる指揮者にあわせて「我も身を揺る」と、臨場感のある結句を得た作者にブラボーである。 |
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○
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ハワイアロハ *
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父に添い有馬へ二日の旅に出る車窓の桜に声あげながら
二日間楽しかったと父は言う帰りたがった事など忘れて
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評)
介護を必要とされる父君に連れ添って、二日の温泉行きであった。ハワイから帰国しての介護もなかなかであろうが、この二日間は父君にも作者にも思い出深い旅となったことであろう。 |
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佳作
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○
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菫 *
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若きナース母をふんはり抱えくれて二時間おきに体位交換す |
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評)
「ふんわり抱えて」と感じ取ったところに ナースへの感謝が読み取れて好感を抱く。 |
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○
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紅 葉 *
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へその緒のきり跡膿みて乾かねば憂いとなって皆を悩ます |
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評)
初めてのお孫さんであろう。若い親のみか作者にとっても嬉しく心配な様子が微笑ましい。「 大事にはいたることなく乳飲児はすました顔ですやすや眠る」ともあった。 |
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○
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つはぶき
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足腰の弱れる夫は吾と行く世界一周の船旅をいふ
才のなき吾と思へど十二年詩吟を続けし喜びも知る |
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評)
老いての船旅も二人ならばと意欲的なご主人。作者も自作の短歌朗詠をめざして短歌にも励まれたい。 |
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○
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夢 子 *
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長椅子に寝て月の出を待つ今宵ここホノルルに命を惜しむ |
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評)
実人生いろいろな生き方があることを知らされる、作者の歌である。 |
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○
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はずき *
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リタイア後つきし仕事はボランテアそのきっかけはイタリアの旅 |
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評)
「宮殿に歴史ガイドの五周年感謝の言葉と賞状を受く」という歌がメインであったと思うが、遠慮されたのであろうか。自薦にどれを選ぶかにも心を傾けたい。 |
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○
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山水 文絵 *
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老いてなお咲き盛る木に集う人皆笑みたたえて良き日なりけり |
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評)
老い樹に列をなす人らの中に母君をお連れできなかった歌も、「吉高の一本桜は三百歳列なす人ら手に手にカメラ」も最終稿から外れていて惜しいと思った。 |
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● |
寸言 |
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投稿を重ねられ、各自の個性が際立つようになりました。良いことでもあり、マンネリ化にもつながりましょう。環境を容易くは替えられませんから、各自の意識的な努力が必要になります。短歌は日記でもなく、物語でもなく、抒情詩であると。
「詩としての言語と声調を個性的に磨くように」
今は亡き小谷稔先生の呼びかけをここにお伝えして終わります。 |
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