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(2019年6月) < *印 新仮名遣い > |
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大窪 和子(新アララギ編集委員)
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秀作 |
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○
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コーラルピンク *
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人波に母の手とられて泣きし娘の今は憶せず車両に飛び乗る
我が胸に頬を預けて目を閉じる幼き娘スーツの森に |
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評) 電車通学を通して娘の成長を見守り、母と子の心の通い合いを温かく描いて情感がある。シチュエーションも新鮮。一首目の結句は「飛び込む」を「飛び乗る」として掲載した。 |
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○
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原 英洋 *
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ブルマンのコーヒーを買った昨日かと季語を調べて時の日を知る
闇を照らす光の膜が収斂して滴り落ちるアート鑑賞 |
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評)
ブルマン、季語、時の日など一見突飛に感じられる語が結びついて成程と納得させられる。新鮮でたのしい。後の歌、闇と光の織りなすアートの立体空間を通り抜けてゆく気分が伝わる。 |
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○
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山水 文絵 *
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蛍舞う闇夜の森を迷い出でし小さき光が道にこぼるる
肩寄せて青き美ら海眺めいるふたつの背中白き砂浜 |
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評)
蛍の競演の中からこぼれ出た小さい光に目を留めて、繊細な美しい歌になった。あとの歌、「美ら海」がきいている。余計な説明を省いて情景をそのまま映して成功している。 |
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○
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文 雄 *
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襲い来る老いの怠さに「しんどい」と言ってみる妻の居ないところで
預金の名義不動産の名義移し終え今日も一人の部屋に歌詠む |
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評)
老いを受け入れている作者。けれどふと漏らす弱音に妻への気配りを忘れない。一首目は下の句で生きた。二首目、悠々自適といってもいい暮しの中にそこはかとなく滲む寂しさに惹かれる。 |
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○
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大村 繁樹
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麻痺しゆく弟に語る幼き日共に潜きて貽貝とりしを
潜きしは「崎」の浦かと問ふ我の手に応へあり力のかぎりの |
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評)
難病で話すこともできない弟さんとの、ぎりぎりの触れ合いを詠った二首。思い出を語りかける兄の手に力のかぎり応える弟、二人の深い哀しみが伝わる。 |
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○
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菫
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深き闇を高速バスはひた走るかそけき息の母へ母へと
人気なき施設のそこのみ灯が点り仏となりたる母は美し |
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評)
この一首目と、最終稿に省かれた二首がよかった。「ありがとう」をもう一度という歌。バス停で涙をみせるお姉さんの歌。切迫した悲しみに力があった。この二首目も悪くはないが、少しゆとりが生まれている。やはり現実と確り向き合った歌には敵わない。 |
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佳作
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○
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まなみ *
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杖を頼りに危なっかしく歩む夫三歩ゆくごと待ちて合わせる
乳がんの検診終わりて渡されしバラの一輪ほのかに香る |
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評)
夫への優しい労りが滲み出て居て感動する。上の句と下の句の間は空けないないほうがいい。一転、自身の検診のあと気配りのある対応に心和む作者の気持ちが素直に表現されていて、読むほうもうれしくなる。 |
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○
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ハワイアロハ *
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後味の悪き映画にカサつきし胸に沁みくる幼児の声
「LOVE YOU」と互いに言いて息子との偶の電話は短く終わる |
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評)
二首共に微妙な感覚をうまく捉えている。幼児の声はどのような時にも妙薬となることに共感。後の歌は互いに忙しい日常の中、ことに息子との会話は用件のみになりがち。しかし一種の言い習わしかもしれないが、初句が効いている。 |
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○
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時雨紫 *
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退職を間近に控え帰宅後のピアノ練習に夫は意気込む
耳栓の探せぬときは急用と夫の背に言い急ぎ外出 |
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評)
退職後にと長年の夢だったのだろうご主人の励み。理解しつつも、初心のピアノの響きにときには食傷する作者。しかしそれとは言わずに、ユーモアをもって対応する。賢明な間の取り方に夫婦円満が目に見えるようだ。 |
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○
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鈴木 英一 *
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山城を映す木曽川に昼の鵜飼い休みなく潜るそのさま哀れ
知多の海は朝早くから波高し予約の底引き網は中止か |
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評)
旅行者の視点での感慨がうまく捉えられている。昼間の鵜飼は幻想的な夜とは違った鵜の動きに感じるものがあるのだろう。底引き網を観ることが出来なくて残念。少し軽いが率直な表現に好感が持てる。 |
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○
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夢 子 *
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生きているただそれだけに満ち足りて終わりの日々を短歌に親しむ
年老いて嬉しき時は君と居て旨きもの食い酌み交わす時 |
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評)
人生の原点に立ち返ったような一首目。そして心を通わせることの出来る人との幸せを満喫している二首目。君との関り方、その様子がチラリとでも見えてくると、深みが出てもっとよくなると思う。 |
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○
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はづき *
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山火事はパラダイスの町を焼き尽くし加州は未曾有の被害出したり
黒煙に目先が見えず車降り逃げ惑う人あり火の手に巻かれて |
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評)
山火事という大きな災害が「パラダイス」、楽園という町に襲ったとは何とも皮肉である。この時作者はどこに居て、どんな状況だったのか。その立ち位置が解かると訴える力が強くなる。 |
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○
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紅 葉 *
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参加者に女性はひとりも見あたらず資格試験の模試の始まる
しばらくはポカンとしたい配られた解答集は見る気になれず |
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評)
やはり何の資格試験なのかは、漠然とでもわかった方がいい。読み手はその疑問に意識がいってしまう。解かれば二首目の面白さももっと生きてくると思う。 |
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● |
寸言 |
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令和という元号を迎え、特に変わることもないか、と思いつつ、やはり時代ということを考える。G20サミットが終り、そこに集った首脳たちの間に流れるものは、さまざまな思惑を絡めてこの時代の縮図でもあったろう。大なり小なり私達はその縮図の広がりの中に生きている。けして大げさなことではなく、短歌は時代に触れて作られなければならないと思う。自分を取り巻くささやかな現実を憶せず詠み取って行きたいと思う。 |
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