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(2019年10月) < *印 新仮名遣い > |
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米安 幸子(新アララギ会員)
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秀作 |
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○
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ハワイアロハ *
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「鬼畜」だとかつて呼ばれし米国人の夫と向き合い戦争を語る
爆弾を日本に落とす飛行機を義父は操縦していしと聞く |
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評)
迎け(のっけ)から意表を突く強い言葉を用いての成功は難しい。それを助けたのは下の句「向き合って語る」と「義父が操縦していた」という確かな具体。作者はかの大戦後の情勢を、直接には知らない世代でしょうか。二首とも過不足のない仕上りは、今日までの精進の賜物と思われます。「三十分をかけてゆっくり落ちてゆき過去へと積もる砂時計の砂」も作者の過ぎ行きを重ねて鑑賞しました。 |
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○
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大村 繁樹
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五十余年会はず鎮めしわが思ひきみ在り我在り再び会ひ得つ |
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評)
理由めいたことは何も述べられていないからこそ、読む者の心を掴むのでしょう。作者に歩み寄りたくなるような愛しい歌です。これまでの万葉調の回想詠の試みは、今月のこの喜ばしい歌へと昇華したのでしょう。 |
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○
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くるまえび * |
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エビ養殖に一生賭けんとエクアドルへ苦難覚悟の我三十歳
エクアドルにて夢果たすべく命かけエビ養殖の指導為し遂ぐ |
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評)
両国の国策に沿った食料政策に基づく派遣任務を完遂された。車海老が庶民の食卓にも上る物となるまでには作者の一生にわたる尊いご苦労があったのですね。 |
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○
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文 雄
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山寺の鐘の音聞こゆクーラーの要らなくなりて窓を開ければ
級友はみな逝き一人残されしが九十二歳まだまだ生きむ |
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評)
九十二歳の口吻そのままの響きとは言え、含蓄のある歌を詠みパソコンから投稿される九十二歳。「まだまだ生きむ」の心意気でお過ごし下さい。またお会いしましょう。 |
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佳作
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○
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太等 美穂子 *
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炎天のつづきて繁る南瓜の葉掻き分け行けば次々現る
トラポンに積まれた南瓜の落ちぬかと気にかけながら後をつきゆく |
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評)
南瓜の葉も実もよく育って豊作と見える。トラポンとはトラクターにつける荷物を運ぶ農機のこと。働く作者の様子から生産者の気概と喜びが伝わり、清々しい歌です。 |
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○
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時雨紫 *
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夕焼けに影落としたる母の家ひつそりとして川辺に佇む
閉め切りし母の茶室に開け入れば仄かに甘く練香匂う |
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評)
濃密な表現を以て意図をはっきり打ち出され、一読鮮明でもあり、読みようによっては諄いともいえるでしょう。もう少し、読者に委ねる余地があってもよいかと思います。 |
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○
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鈴木 英一 *
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ブダペストに菩提樹の白き花あふれシューベルトの曲のフレーズがうかぶ |
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評)
誰しも、歴史ある欧州の美しい景観に心を奪われがちになるところですが、推敲をかさねての下の句となり、ただの観光詠には留まらない、落ち着きのある佳い歌となったと思ます。 |
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○
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紅 葉 *
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ぴかぴかのセカンドキャリアが待っているはずはないのに心は軽い
やり過ぎと分かっていても走るしか仕方がないから私は走る |
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評)
定年まで完走し終えたよろこびと、まだまだ走れるぞと言う気概が窺えます。ただし、初めての読者にも気持ちが伝わるであろうかと、立ち止まりながら仕上げてください。 |
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○
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はずき *
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四年振り六人姉弟とその家族会食せしを父母に感謝す |
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評)
ハワイ在住の作者が帰国。六家族全員での食事会が叶った。改めてご両親の苦労が偲ばれ、一同しみじみと感謝し合ったのでしょう。気持ちの伝わる歌となりました。 |
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○
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山水 文絵 *
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「さぁ皆さんこれがシカゴ」と胸を張るガイドの後ろに光る摩天楼 |
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評)
観光ガイドの様子を活写した上の句と、屹立した「光る摩天楼」の鮮明な情景がマッチしました。25年ぶりの知人との交流場面こそ作者の歌でしたが未提出でした。 |
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○
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夢 子 *
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ポロポロの老いの頭がしゃんとするマルガリータとチョコレート |
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評)
弾みのあるユニークな詠いぶりが印象的でした。 |
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● |
寸言 |
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今月は、『新アララギ』誌上の作品にも匹敵しそうな作品に、幾首か出合いました。作者の詠嘆がまっすぐ読む者に伝わってきて、深い感動を覚えました。次なる機会をたのしみにいたします。なお『新アララギ』への入会は随時受け付けています。ぜひご検討ください。
米安 幸子(新アララギ会員) |
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