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(2020年3月) < *印 新仮名遣い > |
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大窪 和子(新アララギ編集委員)
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秀作 |
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○
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夢 子 *
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我が窓に差し込みて来し満開の桜の枝に窓開け放す
ふるさとを思えば浮かぶ桜の花姉さんかぶりの若き日の母 |
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評)
この国は今桜が満開!長くハワイに暮らす作者の思い出の歌が心に沁みる。二首ともに具体的な事柄を捉えているところに魅力がある。 |
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○
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鈴木 英一 *
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ヴェネチアの港へ水上バスにて着く渡し板にも波が寄せおり
漆喰の乾かぬうちに一人描きしや巨大な「最後の審判」仰ぐ |
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評)
旅行者としての目が細部に行き届いている。前の歌、下の句の波の動きがいい。後の歌は、ミケランジェロの製作への関心が深みのある一首となった。 |
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○
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菫 * |
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故郷の我が家に飼われし雌ヤギはメー子にハイジ、シロに蓮ちゃん
下校後にヤギの乳絞る任ありて冬は両手を湯で温めき |
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評)
4匹もヤギを飼っていた故郷の家、家族同様に名前がついているヤギたちとの暮らしが想像されて楽しい。経験者ならではの二首目、温かい気持ちが伝わる。 |
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○
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紅 葉 *
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品薄のマスクを買えるあてのなく始発ホームに寒風の吹く
使い切る頃にはすでにウイルスは収まっていることを祈らん |
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評)
新型コロナウイルスに世界中が震撼している。身を護るマスクの不足。そしてなんとか早く収束してほしいという願い。人々の思いを代弁する二首となった。 |
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○
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ハワイアロハ *
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スーパーに入る前には丹念にカートのハンドル除菌紙で拭く
使われし除菌の紙の数枚が飛ばされ重なる駐車場のすみ |
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評)
(コロナウイルスの広がる折に)という言葉書きが付く。日常生活の細部に目が届いていて共感しきりである。こんな異常な生活、くっきりと詠み残したい。 |
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○
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烏山 雪男 *
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「タピオカミルクティー一杯につきマスク一枚差し上げます」と貼り紙にあり
ミルクティー飲みつつ帰るスーパーのビニール袋二つ抱えて |
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評)
一頃見かけたこういう商法。禁止になったようだけど?思わずそれに乗ってしまった作者。庶民的なそこはかとない哀感がただよっていていい。 |
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○
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山水 文絵 *
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病院に着けば症状落ち着きてもう帰ろうかと母の言い出す
岩陰にウミウシ見つけ声上げし幼ら遠き日の仁右衛門島に |
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評)
一首目、ありそうなことと共感する。人の心理の一端をとらえていて妙。子供たちの遠い思い出が伝わる二首目。ウミウシ、仁右衛門島、材料にも魅力がある。 |
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○
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はな
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白菜のレシピ三つ四つ浮かべども子の笑顔思ひシチュウに決めぬ
ゆっくりと眠りに着きたし今日一日を辿りつつゐる静寂の中に |
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評)
母親にとって家族の食事は一大事。それをさらりと謡っていてほほえましい。二首目、忙しかった一日、ほっとしてあれこれ思い返す静かな気持が伝わってくる。 |
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佳作
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○
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くるまえび
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終戦後台湾からの引き揚げに原爆あとの長崎へ戻る
リュックサック一人一つに戻りしは家族七人食貧しかりき |
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評)
あれから75年が経つ。日本人の心に焼き付いて、詠っても詠いきれない内容の二首。二首目の上の句にありありとした現実感がある。 |
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○
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文 雄
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ウイルスのニュースを聴けば不安なり聞かずにおれば尚不安なり |
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評)
この状況の中で誰しもが共感するだろう一首。端的にうまく表現されている。 |
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○
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時雨紫 |
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除菌液をためらいながら手に落とし回覧メモの片端を持つ |
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評)
「ためらいながら」に作者の気持が出ている。窓を開け放し大声で会合をするという一首が入るとよかったと思う。 |
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○
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はずき *
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郵便でふっくら封筒届きたり急いで開ける休日の午後 |
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評)
休日の午後の楽しい出来事が「ふっくら封筒」に表わされている。ほかに京都のお漬物の歌が入るとよかった。 |
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○
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鈴木 淡景 *
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畦道に咲きたる白きなでしこをひとつ手折りて君に挿頭さん |
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評)
ロマンティックな美しい歌。でもどこか作りものめく。読者の心に届くのは実感である。他の歌も含めてだが、まず生活のなかの実をつかみ取ってほしい。 |
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○
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大村 茂樹 *
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土手の桜の花芽わづかに赤らめど物がたりならず弟もなし |
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評)
歌の背後に潜んでいるかなしみに心ひかれるが、「物がたりならず」が漠然としていてもどかしい。3首目もほぼ同じ。 |
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● |
寸言 |
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新型コロナウイルスの感染に真っ赤に染められた世界地図。まさかこのようなことが起こるなど、誰が予測したでしょう。恐ろしいことです。今回の投稿歌にもそんな状況下での作品が多く見られました。すべての人が襲われる共通項と、人々が個々に体験する事がらと、視点はさまざまですが、この時代に生きた証しとして詠みとっていきましょう。
それと同時に、常に変わらず推移してゆくものにもしっかりと目を向けて・・・ 大窪 和子(新アララギ編集委員) |
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