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(2020年10月) < *印 新仮名遣い > |
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大窪 和子(新アララギ編集委員)
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秀作 |
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○
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大村 繁樹
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刈られしと見えたる花は海に臨む夕日の土手に赤くかがやく
「みな見に来」と呼ばふは父か曼殊沙華九頭竜川の堤に咲けば |
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評)
河口の土手に咲く彼岸花をくっきりととらえた。父(亡父?)に思いを寄せる2首目、感情の躍動が感じられる。「九頭竜川」が生きている。 |
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○
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時雨紫 |
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幼らとビデオ撮りするハロウィーン家族そろってロボットになる
ダンボールを切り抜きしたるロボットの目より入りくるマスクの世界 |
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評)
ハロウィーンを楽しむ家族の様子が目に浮かぶ。しかし今年はコロナ禍の只中。2首とも洗練された読みぶりで、あとの歌の下の句に注目した。 |
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○
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はずき |
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二週間ロックダウンが延長さる緊急オーダー納得出来ず
ハイウエーでポリスが渡す違反券ケアーホームの掃除は不要不急か |
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評)
コロナ禍での行政措置は急に動く。庶民には納得できないことも多い。具体的に生き生きと主張している2首。作者の気持に大いに共感する。 |
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○
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ハワイアロハ
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壊れかけし珊瑚は元気を取り戻す観光客の入らぬ湾に
紛れ来し小さなカエル踏まぬよう湯をかけぬようシャワーを浴びる |
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評)
客の来る来ないは観光地にとっては致し痒しというところか。あろうことかシャワールームに紛れ込んだのがカエルとは。作者の優しい思いやりが魅力。 |
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○
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紅 葉
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赤児にも自分の家が良いらしい玄関に送り週末終わる
ジジババと遊んでくれているのだと思うに至る孫の世話なり |
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評)
孫のお守をする歌だが感情的にならず、状況を客観的に捉えているところがいい。2首目にはユーモアさえ感じられるが、言われてみればその通りと納得する。 |
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○
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鈴木 英一
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畑中に大き葉広げいるキャベツ中の葉玉の小さく見ゆる
稲雀パッと広がりまた戻る驚き跳ねしか遊びいるのか |
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評)
2首とも畑の爽やかな空気が感じられる。キャベツの葉玉に目をとめたところ、また雀の動きを作者らしい感覚でとらえたところ、個性が感じられていい。 |
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○
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菫
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将校の義父は決まってパンケーキ焼いてくれたり週末の朝に
日本人の妻連れ来たる息子にはフィリピン戦線語らず逝きたり |
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評)
嘗て敵味方であった国の人間同士が家族になったという複雑な内容の歌、お互いの優しさ、心遣いが静かに描かれていて心温まり、人の賢さということを思う。 |
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○
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山水 文絵
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孫の写真に「元気でいてね」の文字付され我デビューせり敬老の日に
「おごるよ」と息子に誘われ鰻屋へフロントガラスに赤い名月 |
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評)
2首ともに下の句に魅力がある。敬老の日へのデビュー、前向きな表現がいい。息子と出かけるのが庶民的な「鰻屋」。そこで「赤い名月」が生きている。 |
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○
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原田 好美
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生徒らに見せたきものぞ稲の花かそけく咲きて須臾に閉ざすを
収穫せし向日葵の種を生徒らは逸りて数う予想当たれと |
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評)
支援学級の先生の歌。稲の花の実態を見せたいという生徒への愛情に溢れている。実習の向日葵の種に喜ぶ子ら。個の生徒へ目を向ける歌も作ってみてはと思う。 |
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○
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清水 織恵
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「持ったか着けたか」家族の会話にとけこんでマスク縁側に並んで干さる
マスクつけぬ家の中では紅を引く化粧台のまえ儀式のように |
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評)
マスクが必需品となっている現状を明るく捉えている。結句の収め方がいい。2首目も悪くはないが、「胸につけるホック・・」の歌が外れたのは残念に思う。 |
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佳作
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○
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夢 子
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頼り甲斐ある夫のような新しい冷蔵庫はいぶし銀の色なり
マスク付け熱を計りて出陣し求めし野菜新冷蔵庫に収む |
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評)
新しい冷蔵庫を夫のようなという作者らしい発想が、愉しい。またコロナ禍の只中、買物を出陣と表現し、前向きで腰の据わった作品になった。個性的である。 |
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○
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くるまえび
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えび養殖の発祥地エクアドルにそのノウハウを築きしはわれ
アンデスの星眺めつつ虫の音に耳傾けてコーヒー飲みき |
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評)
えび養殖の成功者である作者。始まりはエクアドルと。2首目、深い味わいがある。「コンドルが飛んでゆく」歌もよかった。貴重な人生回顧の歌。尊い。 |
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○
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は な |
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コスモスを見て帰りゆく田の端に割烹着付けし亡母の顕ちおり
禍福ある歳月編みし友の歌集心奪われ秋深みゆく |
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評)
1首目、ほのぼのと亡母を思う歌。2首目は友人の歌集を読んだ感動を気持を込めて表現している。上の句から下の句への流れもよく、心に沁みる。 |
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○
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まなみ
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花びらのくるりと反りて彼岸花の絵手紙に友の微笑みが見ゆ
薄雲を透かして見ゆる白き月虹色の暈に我を誘なう |
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評)
彼岸花の花びらのかたちが無理なく友の笑顔につながっていくのが微笑ましい。後の歌は薄雲の向こうの月を見ての幻想的な情感が詠われ、好感が持てる。 |
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○
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デービッド
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雀らの声を聴きつつぼんやりとしたる頭は目覚めへ向かふ
いけないと思ひつつ飲む二杯目のコーヒー吾を高ぶらせたり |
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評)
少し淡く、気分に流れさているが、それなりに歌としてまとまっている。今後は短歌のなかに生き生きと言葉を刻むという気持ちを持って作ってみてほしい。 |
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○
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中野 由紀子
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「もぎたては甘いよ」ばばと縁先でかじるトマトは天然のジュース
オレンジのひかり東から雲を染め地上にのびる紫のかげ |
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評)
1首目、ばばの声が聞こえるような元気で愉しい歌。2首目は日の出の前か空から地上への大きな景を捉えていて、結句がいい。最終稿は原則3首を。 |
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○
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黒川 泰雄
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電柱が夕焼けの中に傾くはけっこう絵になる何を語るか
白き倉雨音だけの山村に絡まる藤が記憶閉じ込む |
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評)
思いがけない風景を捉えて面白いが、結句が少し落ち着かない。2首目は山村のある風景を伝えている。結句は「込め」でなく「込む」と終止形に。 |
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● |
寸言 |
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今回は作品に触れながら、作者の個性ということを考えた。新型コロナの感染が世界的に収まらない中、コロナの詠いぶりには大きな変化が感じられた。題材は同じようでも一人一人が自分に引き付けた独自の歌を作っているのが頼もしい。また、コロナに関係のない歌も多く、このサイトの落ち着きを見るようでうれしく思った。いずれにせよ個から発する短歌である。様々な環境の中にある個性をしっかりと追及していって頂きたい。 大窪 和子(新アララギ編集委員) |
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