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(2021年11月) < *印 旧仮名遣い > |
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中村 眞人(HP運営委員)
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秀作 |
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○ |
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夢子 |
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よろよろと歩けば母を思い出すゆっくり歩いてあげればよかった
六十年かけて築きし我が城に籠もりて見えぬコロナと闘う |
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評)
素直な言葉で作者の実感を詠んだ作品。飄々とした雰囲気に作者の人柄がうかがえる生活詠である。 |
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○ |
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くるまえび * |
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エクアドル野口英世は偉業とげわれは指導すエビ養殖を
病むわれに夕食作るまじめ顔妻を見つめて感謝の気持ち |
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評)
長い年月をかけて務めてきた職業、そしてそれに臨む意欲には、人に譲れないものがある。生活をともにする家族への視線と思いも、同じ心情から発する。 |
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○ |
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原田 好美 |
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静岡を終の住処と移り来て茶の花を見たり夫との晩秋
宣言下報せありとて帰られぬ今我待つは母の位牌なり |
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評)
生活を取り巻く自然と社会の環境、そのなかでの強い想いが、事実の描写を通じて相手に訴える。 |
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○ |
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鮫島 洋二郎 * |
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泡立草芒の原に群れ咲きてモンペのをみな畑の芋掘る
ガァバの香の仄かに匂ふ厨佇つ朝の清らのひとり在る島 |
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評)
南の島の素朴な情景と作者の心象が、虚飾のない言葉によって活写されている。 |
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佳作
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○ |
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鈴木 英一 |
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まだできるとテニスコートで球追うもわずか遅れる足のもどかし
赤城山大沼のほとりで蕎麦を食う周りの眺めげに火口湖なり |
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評)
作者の意志と体感、また自然の情景が、実体験を素材として表現されている。 |
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○ |
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はな |
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頼まれて写真を撮りぬ振り袖の娘と並ぶ母の笑顔を
木犀の香を辿り行き知らぬ間に一万歩過ぎ秋の陽の暮る |
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評)
季節の情景のなかから作者によって感じ取られた事柄によって、心情が描かれている。 |
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○ |
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源漫 * |
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風そよぐ青田に白きゴム気球落ちたる方へ子らが駆けよる
緑陰に本読むわれを夕べまで待つ自転車に夕陽耀う |
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評)
日常的な情景の描写のなかに独自の雰囲気を表現している。二首目は、作者の意図を汲みながら結句を少し改めた。 |
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○ |
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大村 繁樹 * |
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曉に妻の気配に目覚め出で共に歩みゐし土手道へ上る
欅散るに浮かび来る妻の微笑みよその朝送られ出でしが終になりたり |
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評)
想念の中心的な事実に集中していくことにより、訴えたいことが明確になり、また理解されやすい表現となった。 |
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○ |
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時雨紫 |
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いつの間にか炭切る季節の巡りきて炉に並べいる師の手眺める
たぎる湯を碗に注ぎて濃茶練る小糠雨降る肌寒き日に |
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評)
総合芸術である茶道を素材にとりながら、移りゆく自然の描写のなかに、作者の向上心が現れている。 |
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○ |
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上野 滋 * |
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刈り終へし稲田に歩む伸びし影衣替へよと吾に促す
たわわなる稲穂に露の輝くを眺めて覚ゆ地球の営み |
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評)
豊かな言語表現を自ら制御して、短歌の格調に収めている。 |
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○ |
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紅葉 |
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一週間ぶりに出勤す真冬並みの寒波にコートを取り出す朝
あちこちに咳の音する車内なり下がりかかったマスクを上げる |
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評)
客観的な事実の描写を通じて、作者の実感が伝えられている。 |
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○ |
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はなえ |
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足すことに執着しいし吾の画は引いて初めて活きいきとする |
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評)
絵画制作を素材として、詩歌の表現にも通ずることを表している。 |
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● |
寸言 |
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「秀作」「佳作」という区分は、作品の巧拙によるものではありません。自作の歌稿に、推敲を重ねることによって、心象の中心となることが自覚されていくとともに、表現の無駄が切り捨てられて、不明瞭な言葉が明確になっていきます。そのことが実感されれば幸いです。
中村 眞人(HP運営委員) |
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