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(2021年12月) < *印 旧仮名遣い > |
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小田 利文(HP運営委員)
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秀作 |
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○ |
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はな |
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裸木となりし並木は冬晴れの空軽やかに押し上げている
カーテンを通して来たる冬の陽に母思いいる優しき笑みを |
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評)
一首目、投稿歌では四首目だったこの作品に最も作者の感性を感じ取ることができた。初稿の下句に見られた一般的な感じ方・表現を脱し、「空軽やかに押し上げている」と作者独自の言葉で表すことができた。二首目、下句の畳みかけるような表現から、母君への思慕の強さが伝わってくる。 |
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○ |
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原田 好美 |
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杖つきて一歩また一歩とリハビリに「維持が大事」と唱えて励む
片麻痺の身体になりて六年余歌との出会いがわれを救いぬ |
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評)
一首目、「一歩一歩」の間に「また」を入れた以外は初稿のままであり、始めから良く整っていた。自身の言動を客観的に捉えて表現し、その場の様子が読む者に静かに伝わってくる作品である。二首目、状況は様々でも歌との出会いについて、この作品に共鳴する読者は少なくないだろう。作者の深い思いが込められた歌。 |
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○ |
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くるまえび |
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夢賭けてエビ養殖に励みたる我が人生に後悔はなし
病床のベッドの上で終日
に思い馳せるは終焉の時 |
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評)
一首目、エビ養殖に一生の夢を賭けた作者の思いがストレートに伝わってくる。作者の実感が込められており、力強さを感じる一首で
ある。二首目、作者が向き合う現状をありのままに詠み、老いや病気と向き合う読者の心に届く歌である。くるまえびさんの力作、これからも期待しています。 |
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○ |
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はなえ |
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葛藤と意志の強さを感じたり芳崖の絵を目にした刹那
どの絵にも青み赤みが共通の言語のように漂っている |
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評)
一首目、明治期を中心に活躍した日本画家狩野芳崖の絵を目にした瞬間の印象をストレートに詠み、その絵のことは知らなくても作者の思いは良く伝わってくる作品。二首目、一首目とは対照的に時間をかけて日本画を鑑賞した印象が描かれており、潔い表現には読者を引き付ける力がある。 |
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○ |
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はずき |
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ブルーオリジン二回目の打ち上げ (10/13/2021)
最年長九十歳のシャトナーは「遅いと思わぬ新たな経験」と
シャトナーはオーナーからの招待者演じし役を体験飛行す |
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評)
「スタートレック」のカーク船長役で知られるウィリアム・シャトナー氏の有人宇宙飛行体験を詠んだ連作。一首目、シャトナー氏の台詞が効果的に働き、感銘を覚える一首となった。二首目、作者の今回の五首の中で、最も推敲の努力が感じられる作品。試行錯誤を重ねて辿り着いた下句の表現は、読者を引き付ける魅力あるものとなった。 |
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○ |
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大村 繁樹 * |
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金木犀の香に甦る君の声「東大病の人は、嫌ひよ」と
底ごもる海鳴響かふ椨の森の木漏れ日に光り揺るる下草 |
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評)
一首目、作者の今回の五首の中では五首目の作品だが、作者自身の姿が良く感じられる魅力を持った歌であり、こちらを初めに採った。「君」の若い日の台詞をそのまま取り込んだことが成功しており、新鮮さを感じる作品となった。二首目、作者の視点が森から下草へと絞られていく一首の流れが面白く感じられた。 |
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○ |
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紅 葉 |
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再現答案を書いてしまえば蓋をして寝かしておかむわれもいっしょに
正解を知れば知るほど自己嫌悪しながら過ごす時間とならむ |
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評)
一首目、「再現答案を書」くというそれほど広くは知られていない世界を、この一首を通して垣間見せてくれた。下句には作者の境地がユニークに描かれており、この歌の魅力となっている。二首目、思うような試験結果ではなかったのであろう。一首の勢いから、この試験にかけた作者の強い思いが伝わってくる。 |
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佳作
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○ |
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鮫島 洋二郎 |
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勤労感謝日今朝も変わらず男らは島の港に荷役するなり
藁一本を大事に守る文化あり激しく燃ゆるサイの火祭り |
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評)
一首目、祝日も変わることなく働く島の男たちの姿を描き、引き締まった印象の一首となった。二首目、初稿と比べ一首の内容、リズムともぐっと良くなった。焦点が十分に絞られ、力強さが感じられる作品に仕上がった。 |
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○ |
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夢 子 |
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命あれば目覚めて伸びをせし朝を再び眠る雨音聞きつつ
平穏に慣れたる日々に聞こえ来るアフガニスタンの惨状痛まし |
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評)
一首目、初稿からこつこつと推敲を重ねて、同じ内容ながら伸びやかな一首として仕上げることができた。二首目、一首目からの連作として読むと、結句の詠嘆がより深いものとして迫ってくる。 |
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○ |
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鈴木 英一 |
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遊歩道わきの木蔭に石蕗の黄色き花が賑やかに咲く
同窓生らと弁当を食う芝生には幼稚園児の輪もあちこちに |
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評)
一首目、日差しを浴びて輝く石蕗の花に足をとめる人は多いだろう。遊歩道で出会った時の喜びが下句に素直に表れており、共感できる作品となっている。二首目、出会った光景を飾らずに表現できており、読んで心が和む歌に仕上がった。 |
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○ |
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源 漫 * |
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「食べ過ぎよ」と飴奪はれしをさなごは顰め面して「ママだいきらい」
横顔をちらりと見れば答案に細眉かるく寄せゐる少女 |
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評)
一首目、作者の投稿歌五首中五首目の作品だが、作者の生活が最も感じられる歌であり、最初の一首として採った。改稿1の「天使から〜」と比べ、具体的な光景を描き得たことにより、より共感できる一首となった。二首目も作者の生活の一部が具体的な描写により詠まれており、作者が目にした一シーンを読者に伝えることに成功している。 |
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○ |
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黒川 泰雄 |
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夕陽受けもみじの色となりし松妻を呼ぶ間に色あせいたり
いつも会う近所にすまう寺男コンビニの前で経を唱える |
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評)
一首目、「妻を呼ぶ間に」と具体的な作者の動きを入れることにより、一首が生き生きしたものとなった。二首目、寺男とコンビニの組み合わせに意外性があり、そこをしっかりと捉えてユニークな作品を生み出すことができた。 |
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● |
寸言 |
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今回コメンテーターとして皆さんの作歌の過程に関わる中で、参加者の皆さんの歌を詠む力が確実に向上していることを感じた。コメント通りの改稿ではなく、作者が十分に吟味し、作者自身の言葉で推敲された改稿に出会うと嬉しいものだが、今回はそのような場面に多く出会うことができた。次回も皆さんの作品との出会いを心から楽しみにしています。
小田 利文(新アララギ会員) |
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