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(2022年4月) < *印 旧仮名遣い > |
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大窪 和子(新アララギ編集委員)
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秀作 |
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○ |
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原田 好美 |
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図書館が大好きという孫と来て額寄せ合い本を選びぬ
オオイヌノフグリの花を見つけたよ大きく富士の見える道の端 |
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評)
祖母と孫とのほのぼのとした触れ合い。人の世の豊かさが実感として伝わってくる。富士と月見草ではないが、負けず劣らず見事。上の句の話言葉が生きている。 |
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○ |
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黒川 康雄 |
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カート押し魚のように回遊す昼のスーパーいけすの中で
九時過ぎの木陰のベンチにたどり着き新聞広げ茶の間にしていく |
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評)
発想がまことに面白い。比較的空いているスーパーを生け簀に見立てその中を回遊する作者!また、公園の木陰のベンチを茶の間にしてしまう愉しさ。 |
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○ |
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廣 * |
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吾が姉の命つなぎし金物は焼け残りたりその役終へて
先立ちし子らの名前を指折りて永らふべきやと独りごつ母 |
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評)
姉上の葬儀の折の感慨。具体的な事柄を描いて哀しみを際立たせている。また、長寿の母上、おめでたさの裏側に篭る哀切な思いを静かに伝えている。 |
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○ |
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はるたか |
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食欲は細りたれども同量の食事を摂れば体重減らず
九十四の齢となれば滑らずに床歩くさえ褒められている |
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評)
94歳、自分自身を客観的に見つめる姿勢に学びたい。ことに2首目、褒められる喜びと共にただ床を歩くだけなのにという些かの皮肉がなんとも妙。 |
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○ |
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鈴木 英一 * |
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免許更新に認知機能の検査ありかやうな制度世界にありしや
やっと咲きし桜の向かう霞む山ぼかしを入れて絵にしたきかな |
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評)
私も経験者だが、まことに詳細な検査を受けるのだ。このような思いには共感する。後の歌、景色を見て絵のようだととはよくいうが、絵に描きたいはユニーク。 |
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○ |
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くるまえび |
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米国の貨物船リバティー号の船底に押し込められて台湾を去る
大阪に我らを待ちいし兄の許へ戦犯逮捕の悲しきニュース |
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評)
戦争の記憶は生涯、経験した人を苦しめる。今起こっている理不尽なロシアの侵攻が、過去の記憶を再び炙り出す。詠み続けなければならないテーマであろう。 |
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○ |
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夢子 |
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悲惨なる戦場の街刻々と映すテレビに心が疼く
ウクライナの惨状見れば甦る東京大空襲昨日のごとく |
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評)
今、何処に何が起こっても瞬時に世界中に伝えられる。戦争も例外ではない。その悲しい現実を率直に捉えてくっきりした歌に仕上げている。 |
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○ |
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大村 繁樹 *
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九頭竜川轟く海に入るところ土手の桜の古木含みぬ
稼業継ぎし父その夢を捨てざりき老いて書きたる論文の在り |
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評)
九頭竜川の河口の情景が目に浮かぶ。桜の古木のどっしりした存在感がいい。また、父上を慕い、その生き様を尊敬する作者。子としての深い思いが伝わる。 |
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佳作
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○ |
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はなえ |
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ロシア軍の侵攻以来買い出しは割引券を配る日に行く
ワクチンの副反応にて関節の痛みに震え一夜を明かす |
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評)
遠い戦争でありながら何かしら暮しに切迫感が生まれる。そこを捉えた一首目。コロナワクチンの接種も様々な議論の中で進んでいる。歌としての流れがいい。 |
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○ |
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時雨紫 |
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桜咲き散りゆく様を「花舞」と筆走らせる午後の集注
桜散り葉桜なるも花生けに生きん生きんと囁く声す |
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評)
茶室にて茶会の準備を気持ちを集中させて行う前の歌。茶会の後、花の散った桜に心を寄せる後の歌。茶事に係る視点が独特である。 |
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○ |
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鮫島 洋二郎 * |
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島の子ら旅立つ朝の角出には幸多かれと桜東風吹く
東京の焼野が原を彷彿と胸塞がるるキーウの惨禍 |
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評)
島の子らの旅立ちの季節に吹くという「桜東風」、独特で晴れやかな歌。あとの歌は類歌は多いが日本人にとって詠まないではいられない歌である。 |
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○ |
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紅葉 |
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原因がほぼわかっている症状になかば安堵しなかば恐れる
発熱と頭痛腰痛一昼夜たっても改善の兆しは見えず |
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評)
コロナワクチンの副反応だろう。感染者数は一頃よりは減ったといっても横這い状態が続く。これも類歌は多いが自分の体験として詠み残すべきだろう。 |
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○ |
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はな |
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街路樹のこぶしの花の白さ冴ゆ空の青さに光となりて
港町を祭りの山車の練りゆきぬ密を避けつつ拍手で送る |
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評)
前の歌、空の青さに負けない花の白さが印象的に捉えられた。「光りとなりて」が生きている。お祭りにもコロナ事情が翳を落す。控え目な喜び、好もしい。 |
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○ |
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はずき |
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葬式には参列をせん四年ぶりの友との出会いは悲しみの中 |
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評)
4年間会わなかった知人の子供さんの訃報を新聞で知って悲しむ一連の歌。葬式でその知人も亡くなっていたのを知る複雑な事情だが、この歌は1首で独立した悲しみが伝わる。 |
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● |
寸言 |
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世界中を巻き込んだ新型コロナの災禍。こんなことがあるのかと信じられない日々を過ごしているさ中、又しても今、それを越える戦禍がこの星を悲しみに陥れている。こんな時私たちは何を詠むべきか。日常生活にひたひたと寄せてくる何がしかを見落とさず、それぞれの立場から短歌に掬い取って行きたいと思う。やがてそれらは一人一人の心の歴史として残って行くに違いない。
大窪和子(新アララギ編集委員) |
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