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(2022年9月) < *印 旧仮名遣い > |
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清野 八枝(HP運営委員)
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秀作 |
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○ |
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はるたか |
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思いやりの戸を少し開け隣室に妻は夕餉の支度しており
怠いのかしんどいのかと体調を妻が訊くなり嘘は言うなと |
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評)
作者の耳や体調を気遣って少し開けた戸を「思いやりの戸」という作者の妻への感謝が温かく、下の句の妻の姿があたたかな家庭の幸せを感じさせる。後の歌、体調を訊く妻の言葉にはっとさせられた。妻を心配させまいとする作者の言葉もみんなお見通しなのだから。2首とも初稿のまま。 |
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○ |
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はな |
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夕空は薄青色に茜雲夏病みしことひととき忘る
紫陽花も朝顔もはや末枯れたり身の裡の秋ゆるゆると来よ |
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評)
美しい夕空を眺めていると、病に苦しんだ夏を一瞬忘れてしまうような気がする、と詠む。空の色の難しい表現がよく工夫されていて、下の句の表現に心うたれる。初稿のままで。後の歌、はっとさせる下の句。外界の植物は秋が来て末枯れてしまったが、目に見えない、わが身の裡の秋はゆっくりと静かにやってきてほしい、と。老いに向かう心情がしみじみと伝わってくる。「外界」と「身の裡」を対照させた詠み方も新鮮である。推敲してとても良い歌になった。 |
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○ |
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吉井 秀雄 |
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東雲に淡きむらさき棚引きて藤波の色空に溶けゆく
車椅子の老婦人ひとり銀の髪を梳く窓の辺に朝の日の差す |
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評)
東雲のたなびく雲の色と藤波の色が重なるように溶け合う、幻想的な明け方の美しさを見事に表現した叙景歌である。なめらかな調べも心地よい。後の歌、高齢者施設での光景であろうか。「銀の髪を梳く」が美しく印象的で、下の句の爽やかな朝の光によって一枚の絵画のようなイメージが浮かんでくる。 |
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○ |
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廣 * |
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息潜め並みゐるカメラの先追へば翡翠じっと水面窺ふ
枝垂れ桜隣家の庭に咲き初めて窓辺にひとり酒を酌む宵 |
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評)
写実の表現が的確で、その場の緊張感が読者に直に伝わってくる。その光景が浮かんで、思わず頬が緩んでしまった。初稿のまま。後の歌、推敲を重ねて、作者の意図したという、李白の「月下独酌」の世界を思わせる一首に仕上がった。主人公は勿論作者自身である。 |
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○ |
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くるまえび |
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丘に立ち海見下ろせば懐かしき故郷の景色浮かびて涙す
静かなるカネオヘ湾へ鳥が飛ぶ夕日を受けて何処へ帰る |
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評)
故郷を遠く離れてハワイに暮らしている作者。海を見下ろせば故郷の風景が浮かんでくる。おだやかな優しい日本の海なのであろう。懐かしい故郷をしのび涙ぐむ作者を思う。後の歌、カネオヘ湾は形のきれいな大きな湾で、その湾の向こうへ鳥が飛んで行く、夕日を受けながら、、、。ハワイの夕景を大きく捉えながら、結句は作者の故郷への思いを重ねているようにも見える。故郷を遠く離れた地名も効果的である。 |
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○ |
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時雨紫
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大筆を使いしままに放置せしか墨液の中に静かに浸す
大き壺に夏の残花を生けんとし心移ろう蓮の実の茶に |
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評)
久しぶりに筆を持つと筆先が曲がっていた。使ったまま放置していた自身を悔やみながら、静かに墨液にひたしてゆく。作者の気持のこもった結句がとても良い。後の歌、大きな壺に夏の名残を表現しようと工夫する作者の姿が生き生きと見えてくる。蓮の実の茶色にしようかと迷った一瞬の心の動きをとらえ、リズムに乗せて自然に詠み上げた。 |
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○ |
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鈴木 英一 * |
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孫娘小さきトカゲかごに入れ額近づけいつまでも観る
我が庭に風の落ししミニトマトなほ赤み増し熟しゆくなり |
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評)
トカゲはすばしこいので捕まえてもらったものかもしれない。下の句は珍しいトカゲに心を奪われている孫娘のあどけなく可愛らしい様子が、作者の写実的表現によって見事に伝わってくる。後の歌、写実そのままの表現であるのに「なほ赤み増し熟しゆく」小さなトマトへの作者の眼差しの温かさが伝わってくる。 |
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○ |
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原田 好美 |
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わが娘産む大事のときに温かく世話してくれし義母の逝きたり
父を助け母貝育てし日々話す真珠のネックレス譲るわが娘に |
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評)
義母への感謝を込め、その逝去を悼む一首である。
我が子が生まれる時に懸命に世話をしてくれた義母の姿が蘇ってくる。後の歌、推敲を重ねて焦点がはっきりとしてきた一首。「アコヤガイの藻やフジツボを取り除く作業をしたと娘に昔語りす」という初稿から、改稿を重ねて、最終稿に至った。真珠のネックレスを娘に譲るという、その記念の時に、母である作者が語る物語である。 |
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○ |
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はずき |
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日々に増す日本から来る観光客ホノルルハワイの嬉しいニュース
デジタルの便利な世なるも真実を伝えん人の温もり持ちて |
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評)
コロナへの警戒もようやく解除となって、ハワイを訪れる日本からの観光客が徐々に増えてきたことを喜ぶ作者の思いが素直に伝わる。後の歌、作者はドーセント(美術館や博物館の展示解説者)として、観光客にハワイの文化を伝えるボランティア活動をしている。デジタル機器が多く用いられる現代にあっても、人と人との温もりのなかに真心をもって真実を伝えていきたい、という作者の熱い思いに心打たれる。 |
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○ |
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紅葉 |
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窓開けと亀の掃除と公園の散歩に出れば日常になる
今度こそ梅雨はあけたかみんみんと鳴きそむ夏の木陰を走る |
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評)
初稿へのコメントだけでよく推敲はしているが、改稿1までは出すこと。前の歌、数日の留守の後にいつものぺースに戻る順序が面白い。「亀の掃除」が作者の人柄を思わせてほっとさせられる。後の歌、推敲がよくできている。梅雨明けの季節感とランニングする作者の姿が生き生きと浮かんでくる。「初む」は体言(名詞)につくときは、「そむる」という連体形になるので、「鳴きそむる夏」または「鳴きそむる木陰」となる。改稿をすると様々なことが学べることをお伝えしたい。 |
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佳作
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○ |
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まなみ |
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初めてのラインダンスに大慌て順序を覚えむと脳フル稼働す
12週の夏季のクラスが終わる頃颯爽とふむチャチャチャのステップ |
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評)
推敲がよくできて、初めてのラインダンスに脳も身体もフル稼働を楽しんでいる作者の様子がみえてくる。後の歌、ダンスを楽しむ作者の喜びが伝わってくる。下の句からはチャチャチャのリズムが聞こえてきそうだ。 |
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○ |
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夢子 |
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変な夢いつでも道に迷ってる松の大木の森彷徨いて
理想主義掲げて生きて八十年今も叫ぶは「戦争反対」 |
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評)
奇妙な夢は何を示唆しているのだろう。心の奥のわだかまりが繰り返し夢に現れるのかもしれない。誰にも思い当たることかと思う。後の歌、夢子さんの生き方が見事に表現されている。特に下の句「今も叫ぶは戦争反対」に多くの人が共感することだろう。 |
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○ |
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鮫島 洋二郎 |
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水澄ましたがめたにしに源五郎懐かしきかな昭和の記憶 |
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評)
体調を崩して初稿のみ出した作者の歌、上の句は平仮名が続き分かりにくいので、タガメをカタカナにするとよい。今はいなくなってしまった水生生物を懐かしむ作者に共感する人も多いことだろう。ゆっくりと養生されて、またホームページでお会いする日を楽しみにしています。 |
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○ |
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久遠 恭子 |
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暁の時の短さ儚めど世の流れさえ紅葉の色彩 |
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評)
時の流れのはかなさを詠む一首。今、世界は軍事、政治、日常生活も目まぐるしく変化して世界中を不安が覆っているが、一首は古典的な捉え方でなめらかに美しく詠んでいる。作者は古典的な表現に惹かれているように見えるが、古典文法を知らないと思いが相手に伝わらないので(時には逆の意味になってしまう)、改稿をしながら少しずつ学んでゆかれることをお勧めしたい。 |
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○ |
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村上 宗 |
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傍にいて別れて消えるその日まで一緒に愛を分かち合えれば |
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評)
初句は呼びかけであろう。結句は「分かち合いたい」が本音だろうから、そのまま詠むのが良いと思う。素直に詠んでいて、気持は伝わる。改稿をしてゆくといろいろな勉強ができるので、お勧めします。 |
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寸言 |
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突然のロシアの侵攻から7か月が経過し、世界の情勢は全く変わってしまいました。無力感に打ちのめされつつも、この現実から目をそらさず見つめていかなければ、と思います。9月は台風14号、15号に襲われ、大変な被害がありました。皆さんの地域は如何でしたでしょうか、案じております。
今回の投稿歌を見ますと、対象の把握に一段と深みが増してきていると感じる作者が多く、改稿のたびに私も一緒に勉強させて頂きました。そして、作者の思いを伝える表現には、具体的な写実が根本にあることが大切だ、と実感しています。体調のすぐれない時は無理をせず、これからも意欲的な投稿をお待ちしています。
清野 八枝(HP運営委員) |
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