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今月の秀歌と選評



 (2024年2月) < *印 旧仮名遣い >

小松 昶(HP運営委員)


 
秀作
 


つくし

燃えつきて骨になりたる母を見て魂などはあらぬと思ふ
寝たきりにならぬやうにと逝く朝も起きしを母の短歌に知りぬ


評)
前:焼かれて骨になった母、あまりのあっけなさに魂の存在など信じられない。もう会えない悲しみの深さは計り知れない。後:病が重くても前向きな母、それがあだになって無理をして朝起きたことが寿命を縮めてしまった。作者のやりきれない気持ちが伝わってくる。
 


はな

「たっちゃん」が口癖だった友の死を知らせる手紙辰ちゃんの字で
擦り切れた父の呉れたるスカーフを思い出と共に箪笥に仕舞ふ


評)
前:三人の仲良しの一人が亡くなった。辰ちゃんからの知らせが、メールや電話ではなく手紙だった所に辰ちゃんの気持ちが込められている。後:擦り切れても捨てられない、父の呉れたものだから。素敵な父と娘で、二人の心の交流に胸が熱くなる。
 


原田

富士山の五合目を車椅子に巡り吾が丈ほどのフジアザミに触る
弟の育てしミカン届きたり「はるみ」は甘く「はるか」さわやか


評)
前:車椅子での移動は大変だったと思われるが、富士山固有の植物に直に触れて、憧れの富士山に登って来た感動が実感として伝わってくる。後:静岡の特産、いかにも美味しそうな名前を並べて読者の垂涎を誘う。弟さんへの感謝も伝わってくる。
 


大村 繁樹

腸のポリプ切らぬと決めてふと浮かぶ幼かりし子の明るき笑顔
釈放されサディ氏我が子を抱き上げつ明るき声の空に弾けし


評)
前:癌になりそうなポリープを持って生きることと幼児の笑顔との取り合わせ。死にゆく吾を思えば、生きゆく我が子にふと思いが至るのは判る。後:かつて加入していた「アムネスティ」での一場面。「明るき声」は子の声であろうが、作者の歓びも窺える。「良心の囚人」サディ氏がどんな罪を着せられていたのか連作にでも表現されているとなお印象が深くなったと思う。
 


夢子

西陽さす貴方の部屋に初めての鰹節と醤油の白い飯
日常を父母さえも捨てて来た宿に聞こえし川のせせらぎ


評)
前:青春の思い出。上の句に温かく眩しいイメージを顕たせ、下の句に質素なママゴトのような懐かしさが滲む。後:駆け落ちのような状況か。思い切った大仕事を終えた後の或る達成感や安堵感が結句に感じられる。
 


時雨紫

背を丸め日向ぼこする夫と食む七草茶漬けは陽だまりの味
口笛を吹きつつ濡らす唇に仄かに残るリリコイの味


評)
前:ある年齢に達している夫婦なのであろう、「七草茶漬け」の季節感や爽やかさが結句とよく響き合っている。二人の心の通い合う微笑ましい関係も窺われる。後:リリコイはパッションフルーツ、その甘酸っぱい爽やかさが上の句の具体描写とよく共鳴している。
 

佳作



はずき

八ヶ月監禁されし引き換えに原住民は自由を得たり
王朝は百年足らずに滅亡し最後の米国州となりたり (ハワイ王朝最後の女王リリウオカラニ)


評)
欧米の干渉を受けて革命がおこり、王国が亡び、アメリカ最後の州となったハワイの歴史をドラマチックに表現した一連である。ここでは最後の王朝への主として同情が表現されているが、「一月十七日は「平和マーチ」ハワイ王国打倒百三十一年」では、革命に成功した民衆の立場に心を寄せているようだ。
 


鈴木 英一

庭の芝あちこちボコボコ盛り上がりモグラの路かとスマホに収む
アメリカの友はご飯にたっぷりと醤油を掛けてこれが旨しと


評)
前:面白いものに出会った作者。穴を掘ってモグラの写真が撮れると証拠になるのだが。いずれにしても、何事にも興味を持つことは大事なことですね。後:アメリカ人でなくても、白飯に醤油はうまいものだ。彼らにとっては珍しいので余計旨いのだろう。お人柄であろう、どちらの歌もどことなくユーモラスで、読者の心をほぐしてくれる。
 


紅葉

空でなく地上でぶつかる飛行機にどうかしている日本を憂う
一割のクラスメイトが発熱す疲れているのは私だけではない


評)
前:一月の事故だが、作者に同感だ。死者が乗客にはなかったことが不幸中の幸いだったが、原因究明と安全対策を是非、早急に確立して欲しいものだ。後:何かの資格を取るための学校で勉強している作者たちなのだろうか。皆、疲れているようだが、夢の実現に向かって、コロナやインフル等に負けずに、踏ん張って欲しいものだ。原作の「1割」を「一割」に直した。
 
 
寸言

 本日で、プーチンのウクライナ侵略がまる二年になった。いや、クリミヤ半島の占領から言えば、足掛け十年になるという。いまだ戦況は先が見えない状況で、現地の人々の苦悩はいかほどであろうか。また、昨年十月からの(本当はもっと前からの)イスラエルとハマスの殺し合いもまだまだ先が見えない状況だ。地球の温暖化も更に深刻さを増している。国内でも、政府与党の長年にわたる裏金かくし、能登半島の震災はじめ、問題は山積している。そんな社会的状況だけでなく、現代に生きる私たちは、個人的な苦しみや、また反対に喜びも様々に有している。自分に引き付けて、具体的に詠むことを心に、より一層の歌のご投稿をお待ちします。
             小松 昶(HP運営委員)
 
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