○鹽鮭の片身そぎたるいろうすし寒きくりやの北あかりの中 鹿児島壽藏
○家に旅にありて用ゐし小辭典からびのこれる背革をなづる
詠み口は達者だが、技巧の慣れが目だつばかりで、作者の感動している事柄に少しも同調できない。鹿児島氏の作品は、雑報的なものや些末な興味やあるいは主観的独断のものが多くて、最近はすっかりみづみづしい抒情性を喪失している。右の二首にしても、いささか末梢的な興味でありすぎるのではないか。
○夕空にひろげし枝にたわたわに咲ける辛夷の白き清花(すがはな) 廣野 三郎
○窓越しに日日親しめる桃の花褪せしくれなゐも見過しがたき
素直な写生歌で反感は持たないが、外光の描写にももう少し別の角度から新しい行き方を試みなければ、アララギの歌風に行きづまりが来るのは当然であろう。この作者もおとなしくしていないで、もっと意欲のある作品を示してもらひたいものだ。
|