短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」


○石原の雪夕映ゆる千曲川この夕べ行き人こひまさる  五味 保義
○千曲川の寒きひびきに立てる時妻乗る汽車の谷遠く来る

 一首目は少し形式的な点が目立つと思う。声調が型にはまっているのであろう。また「石原の雪夕映ゆる」とは着実な写生であろうか。 次のは上句がやや平凡だが、何か西洋の短編小説にもありそうな情感で、奥行きのある表現に好意が持てる。この作者の旅行関係の歌は、少し堅すぎて動きのないものが多いように思うが、この歌は単なる旅行嘱目の作でなかった事によって、救われているのであろうか。

○夜半の野路いゆき続くる或る個所に甚(いた)く風鳴る電柱があり          鈴木 一念
○ライトにて闇の病室を見めぐりぬ硝子戸を打つ雪の点々

 この作者の、極度に主観、感情を排した、即物的な丁寧な写生の行き方は、それなりにある種の風格を見せておもしろいが、あまりくどくどした詠みぶりや、対象の外殻だけを捕えた感じの目立つ場合が多く、作者の努力が努力だけで終っているという気もしないではない。今月の右の二首も言葉が騒がしいだけで内容が空疎だと思う。

  昭和二十六年六月号

 (漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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