短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」


○偽善ひとつ吾が言ふ時に判るふりして聞きくれぬ有難し    小暮 政次
○高てらす日の輝きに風出でてにほふ馬酔木のかげに火を守る

 相変わらず達者な技巧だ。我々が小暮氏のものから刺戟を受けるとしても、それは表現技巧の上だけからと言うことになろう。そのかわり、一首一首、一句一句の動きがそれぞれ計算されていて、いずれもおもしろいのである。しかし、それは結局表面的なおもしろさに終るのではないか。第二首など各句がそれぞれそっぽを向いていながら不思議に一首としての統一も保っているが底に含むものは何もない。小暮氏は歌を設計するというタイプであろう。

○石白き河原に影し降りて行く重爆機みな人にあらぬ如     近藤 芳美
○箱さげて暗き車内をあゆみ行く盲兵にひとり吾が怒り湧く

 近藤氏のは、小暮氏と対照的で素材をそのままぶつけるやり方であり、表現面ではいつも固定している点がやはり不満になる。またふっくらとした豊かな声調をこの作者のものから味わったこと事も少ないように思う。今日の時代に生きる人間の直接の声を生々しく表現しょうとする努力は十分尊敬すべき事だが、それがいくらか作為的に意識的になり過ぎる場合もあるようだ。二首目の「ひとり吾が怒り湧く」に私はそれを感じた。

 以上遠慮のない物言いをしたが、悪口を言いやすい作を選んで、その上勝手な放言をしたという気がする。しかし、五月集其一全体を読んで新旧を問わず、深く感動した作に殆ど出会わなかったという事だけは言い添えておきたい。

                昭和二十六年六月号

 (漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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