短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」

 十一月号作品評 其一   冨田重延 宮地伸一  (六)

原爆投下の任務終りし声ひびく四十年前の若きその声
                   新貝 雅子

 [宮地] 当時の記録映画など見る折があっての感慨であろう。少々淡々としていすぎるのではあるまいか。日本人としてのこだわりがもっと作品の奥から響いてくるべきなのに、事実をあっさりと叙しただけという不満を持たざるを得ない。もっとも「若きその声」という取り上げ方に、作者の多少の思いがこもっていないとは言えないようであるが。

 [冨田] 作者はこの一首で何を言いたかったのであろうか。このままでは、四十年の時の隔たりを嘆いた歌のように受け取れるのだが、或いは、命令のまま行った自分の行為の重大さに気付かぬ若い兵士に対する何か作者の抱いた感慨を詠ったものなのか。もし映画かテレビで見た時の感動をそのまま詠んだものとしたら、原爆を素材とした歌としては、「少々淡々としていすぎるのではあるまいか云々」の前評に賛成である。何れにしても作者の訴えんとする気持を汲み取り得ぬもどかしさの残る一首である。

(昭和61年新年号)

(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



バックナンバー