七月号作品評 其一 生井武司 宮地伸一 (一)
故里の幼き日歩みゆく路のまぼろし眠りと眠りの間にて
土屋 文明
[生井] まぼろしであるから「幼き日歩みゆく」と現在形にし、「眠りと眠りの間にて」の実際に即応している。そして下の句は深くしずかな味わいを蔵して響いて来る。
[宮地] すらりと行かない特殊なリズムを持つ歌である。「眠りと眠りの間にて」という捉え方によって、魅力のある一首になったと言えよう。
捨てるにしても少しく読みてと思ふ本幾冊か机に重ね置きたり 吉田 正俊
[生井] 寄贈本なのであろう。「少しく読みてと思ふ本」に微妙な心の動きを感ずる。上の句は自由な表現で字余りも気にならず、口語表現を押し進めた観がある。
[宮地] 前評に同感である。初句の「捨てるにしても」の口語が効果的であるが、その次の「少しく読みて」は「読んで」と言ってないところにも注意したい。
(続く)
(昭和61年9月号)
(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)
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