短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」

 七月号作品評 其一   生井武司 宮地伸一  (二)

いたはられ言はれし歌は恥(やさ)しかりき人に届かぬ老(おい)の執着              落合京太郎

 [生井] 対人関係の中での心理の深層に触れる事ができる。そして下の句に至って自己客観には共鳴を覚え、一気に吐露していて勢いがある。
 [宮地] 「いたはられ言はれし歌」とは作者自身の歌であろう。しかしいたわりを言われることは作者にとって不本意に思われたのであろうと思う。「恥しかりき」と切って、「人に届かぬ老の執着」と続くところは微妙な屈折した心が現われている。技巧的にも冴えた一首。

題材と格闘する心の力言葉の力は説き難し今日君等とあれど                  小暮 政次

 [宮地] 歌会などに出席された際の心であろう。「題材と格闘する」は「心の力」「言葉の力」の双方にかかる。小暮式作歌法とも言うべきものを期せずして告白している形の歌である。「格闘する」という言葉に注意しなければならない。
 [生井] 千載一遇の題材にあったら表現に失敗しても捨てず、再度挑みかかれと言った意味のことをこの作者から言われた事があった。まさに「格闘」である。「心の力言葉の力」を言われたのであったろう。この気息を「説き難し」と言われたと思う。注目すべき歌である。

                            (続く)

(昭和61年9月号)

(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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