短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」

 七月号作品評 其一   生井武司 宮地伸一  (三)

わが庭に来る群鳥よ木の芽食へ山のもの食へ田に下りずして               上村孫作

 [生井] バードウィークなどを設定してポスターなどを貼るようになったのは何時頃からであろうか。結局「田に下りずして」は作者の生活感情である。目玉風船などに取材するより遥かに直接的である。
 [宮地] 「わが庭に来る群鳥よ」と訴えるような形で「木の芽食へ山のもの食へ」と呼びかけるところに作者の歎声がこもる。特に「田に下りずして」とことわることによって この一首は生きたと思う。

六月の光と風と人と馬どよめく渦も空に吸はれて
                 小市已世司

 [生井] 競馬も以前ほど人が集まらないと聞くが、なお相当数にのぼるのであろう。「六月の」は下の四つの名詞に直接かかるのであろうが、その意味と響きは下の句に及んでいる。こうした歌は珍しく、しかも快い驚きを覚える。
 [宮地] 馬券を買って入場した時の歌と知られる。「六月の光と風と人と馬」が「どよめく渦」になっているのであろう。  大胆な詠みぶりで、臨場感の出た歌である。「どよめく渦も空に吸はれて」の「て」止めも利いているようだ。

                            (続く)

(昭和61年9月号)

(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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