短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」

 十一月号作品評 其一   小市巳世司 宮地伸一  (三)

形代を受けし三方を奉持するわが肩に胸に賽銭が当る
                   大谷 光利

 [宮地] 「形代(かたしろ)」は、神の代りに拝むものを言うか。「三方(さんぽう)」は、三方に穴のある四角の台を言う。第二の職を得てこの作者の作歌の世界は、意外な展開をしたと言えようか。「わが肩に胸に賽銭が当る」が即ちそれである。
 [小市] 「受講して神職の階位を得よと言ふ禰宜の勧めに吾はとまどふ」とも歌っているから、まだ職として決めたわけでもなく、禰宜さんの代役という所らしいが、神さまも多忙の時はアルバイトの巫女を臨時に雇うと聞いた。これもアルバイトかも知れぬが、アルバイト料を貰った上にこういう歌まで出来たとすれば、作者としても十分に神様に感謝されたことであろう。

あれは魚あれはらくだあれは鈴病む窓に見る雲も楽しむ
                   徳田 清子

 [宮地]  病室の窓から見える雲をいろいろのものに見立てて楽しむ幼児のような心である。のびのびとしたところがよいと思う。「病む雲」は、やや無理な言い方だが、近頃は一般に多く目につく。
 [小市] 「病窓」は大分前から、近頃は「病廊」なんかも見かける。困ったことだと思っていたが、「病む窓」が現出したということは、なしくずしに「病窓」容認へ動き出したのだろうか。

                     (続く)

(昭和63年新年号)

(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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