十一月号作品評 其一 小市巳世司 宮地伸一 (四)
父の柩目守りて母と寝ねたりきその部屋に今日は置く母の柩を 三宅奈緒子
[宮地] 「この歌のあとに「父亡き五年一人住みにきつひの一年を病みて恋ひにきこの山の家」があり、この歌の注釈の役目を果たしている。客観的な表現のなかに作者の心を汲み取ることが出来るが、「その部屋に今日は置く」には、まだ十分でないものを感ずる。「今日は」は、省けるのではあるまいか。
[小市] 「今日は」作者としては言いたかった所だろう。
六十まで在りて我より先に亡し昆虫標本あとに遺して
一瀬 とく
[宮地] 六十の子息に先立たれた嘆きを端的に詠んでいる。「昆虫標本あとに遺して」という一つの具体を選んだことがこの悲しい歌に力を添えたと言えよう。
[小市] 上の句がよいと思う。お子さんだということもおのずとわかる。「子息」とまでは現れまいが。
(続く)
(昭和63年新年号)
(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)
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