十一月号作品評 其一 小市巳世司 宮地伸一 (五)
生みたてのすき透る卵掌(てのひら)に見せ給ひしを俤にして 小市 草子
[宮地] 佐藤佐太郎氏を悼む一首。佐藤氏は、戦後間もなく養鶏をやっていたからその頃を追想した作であることが分る。
「生みたてのすき透る卵掌に見せ給ひしを」という「俤」の内容が具体的で印象的である。この寡黙の歌人を何となく彷彿とさせるところがあって心惹かれる。
耐へ耐へて勤めてをりし彼を知ることば少く今日辞めゆきぬ 逸見喜久雄
[小市] 下の句が心を引く。
苦しみより解き放たれしごとき父口きけぬまま我を拝みき 市橋 りえ
[小市] 父というものはこういうものであろうか。あるいは父といえども時にこういう具合になるのであろうか。それとは別に「拝む」は他の言い方がありそうな気もするが・・・。仕方ないか。
(続く)
(昭和63年新年号)
(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)
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