短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」

 九月号作品評   其の一   宮地 伸一 (四)

人に代る機械が束ねし札束の帯の弛緩を我は好まず
                  逸見喜久雄

 これからの世界は、人間と機械との対立や葛藤が現実の大きな問題となるであろう。この歌はそこまでは行っていないが、そういう前兆を暗示するかに見える一首である。

青く筋浮く手の甲よ三十年紙幣数へてすぎてきにけり
今我は紙幣数へて誰よりも早しと思ふ思ひて侘し

等、この作者の今月の歌は、職場詠としてすぐれたものを示した。

手に持てる眼鏡さがすと立ちあがりたまゆらわれの心はひるむ               浅井 俊治

 下の句の「たまゆらわれの心はひるむ」は余計な説明ではないだろうか。石川啄木の

笑ふにも笑はれざりき長いこと捜したナイフの手の中にありしに

 にはどうも及ばない。

幼子の飼ふ雛鶏にかすかなる鶏冠は生ひて明けがたき梅雨                 生野 君代

結句の「明けがたき梅雨」が一首にぴたりと調和しないうらみがある。その名詞止めも軽い。

                  (続く)

(昭和五十八年十一月号より)

(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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