人に代る機械が束ねし札束の帯の弛緩を我は好まず
逸見喜久雄
これからの世界は、人間と機械との対立や葛藤が現実の大きな問題となるであろう。この歌はそこまでは行っていないが、そういう前兆を暗示するかに見える一首である。
青く筋浮く手の甲よ三十年紙幣数へてすぎてきにけり
今我は紙幣数へて誰よりも早しと思ふ思ひて侘し
等、この作者の今月の歌は、職場詠としてすぐれたものを示した。
手に持てる眼鏡さがすと立ちあがりたまゆらわれの心はひるむ 浅井 俊治
下の句の「たまゆらわれの心はひるむ」は余計な説明ではないだろうか。石川啄木の
笑ふにも笑はれざりき長いこと捜したナイフの手の中にありしに
にはどうも及ばない。
幼子の飼ふ雛鶏にかすかなる鶏冠は生ひて明けがたき梅雨 生野 君代
結句の「明けがたき梅雨」が一首にぴたりと調和しないうらみがある。その名詞止めも軽い。