短歌雑記帳

アララギ作品評

 九月号作品評   其の二(一)    小谷 稔

雲母のごと義眼はがるる寂しき夢職退きしよりみなくなりたり                 中野 康子

 義眼のはがれる夢とは何と寂しい夢であろう。「義眼はがるる」という特異性にもかかわらず暴露や自虐の気味がなく深い内面的な悲しみの作としている。
 退職後の心境詠として一読忘れがたい感銘がある。

夫の終りをつきとめ得ざりし責一つ心に残りわれは老いたり                  杉浦すみ江

夫の戦死の確認ができないことで作者は戦争や政府を長年恨んできたであろう。しかし、結局の責を妻としての自分一人に帰している。
 長年の努力と失意の後にこの一首に凝結した痛恨は重く深い。
 一見ありふれた結句がこの一首の中では動かしがたく充実している。

                  (続く)

(昭和五十八年十一月号より)

(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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