九月号作品評 其の二(三) 小谷 稔
あきらかに夜ほの白く昼暗く視神経いまだ生きてゐるのか 山本 吉徳
二、三句の把握が常識とは逆になっている点に注目される。それは生理とも心理とも分ち難いような感覚で、盲目の人としても特色がある。調子も張っていて痛々しい。
「仕合せ過ぎた」と妻が言ひたり吾もまた「仕合せだつた」と妻に言ひたり
角田 嘉一
対話を並べた素朴な詠みぶりが、作者の突然の難病という悲劇性を印象づけている。この類の会話を用いて甘く俗にならなかったい真実味と、強い単純さを味わいたい。
共に発つ妻をホームに待たしめてあわただしくも人を弔ふ 松野 谷夫
挽歌としての取り上げた角度に特色がある。型通りの弔問の裏にも個人個人の余儀ない生活があるわけで、この作には生活そのものが持つ哀れを感じる。
(続く)
(昭和五十八年十一月号より)
(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)
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