短歌雑記帳

アララギ作品評

 2012年6月号選歌後記    三宅 奈緒子

人に頼らずやれるまだ出来るいそしまむ(おのれ)に足るを心に秘めて
厨あまねくさしこむ春の夕あかね雪どけ水に野蒜をあらふ
雪代(ゆき)(しろ)()()りくる手に米を研ぐひとりの冬を越えし思ひに
                   鈴木 功

 北国の冬を老いの一人住みに乗りこえての一連。静かにつつましく、しかし気力をたたえての日々が調子の張った各作から窺われる。

苦しみの決断ならむ被曝故放ちし牛のその後を聞かず
鎮魂の鐘身に沁みて祈りをり津波に不明の友も亡き数
ショベルカー無造作に瓦礫を掻き集めバックをしつつトラックに積む
                   佐藤 三代

やうやくに仮設住宅に移り給ふ君より長き手紙届きぬ
君が上に過ぎし一年なぐさむるすべなく東北の地図辿りゐる
何もかも失ひし被災地にかくひとりやはらかに歌を詠める心よ
                   東口 雪子                 

 三・一一も一年を経た。上掲歌の作者はどちらも直接の被災者ではないが、それぞれ親しい人々の其の後を案じ或いは悼んで詠っている。テレビの映像から詠ったと思われるものにも力がこもっているのは、そうしたつながりがあるからであろう。また、東口氏上掲最後の一首は私たちにとっての短歌というものの力を思わせ意味深いものがある。



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