短歌雑記帳

アララギ作品評

 2013年10月号選歌後記    三宅 奈緒子

かく激しき胸の痛みにしばし耐ふ静まりゆくをけふも信じて
思はざる入院に心乱れゐつ全国歌会の迫りしけふは
                    佐藤恵美子

 全国歌会の迫っている時に胸痛を発している作者。その間のあせり、緊張をよく描き出している。闘病の甲斐あって作者は無事大会に出席し得たのであった。

パン作り教へし君も大津波に呑まると聞くのみ術なかりしか
耳を疑ふ為政者の言葉今日も聞くかかる選挙の果て思ふのみ
                    石塚 久代

 かつて作者のパン作りの教師だった人が思いがけずかの大津波で落命。その人を偲びつつ作者は今パンをこねている。現実に即して詠う作者の感慨は先ごろの参議院選挙にも及び、同感させるものがある。

疑はずひたすらなりきと顧みる二十数年前の己を
ヒグラシは明け方短く鳴きて止むをこの頃早く目覚めて知りぬ
                    小島 正

 一連、淡々と詠われているが、己を顧み近くなくヒグラシを聞く日常詠の中に、何か作者独自のしみじみした生活感が感じられ、惹かれるものがある。



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