短歌雑記帳

アララギ作品評

 2013年11月号選歌後記    三宅 奈緒子

樹木医は幹を叩きて病める箇所カルテに記し園巡りたり
わが憩ふ前に枝垂るる松の枝優しく叩き樹木医去りぬ
                    舟橋恵津子

 「樹木医」という言葉はよく聞くが、そうした人の働きに目をとめ、動作を作品化しているものは少ないように思う。この作者がさりげなくその姿を写して一種の雰囲気を出しているのに惹かれた。

再びの歩行叶はぬ身となりてはははベッドに小さく眠る
生と死のはざまに浅く息をして姑は布団に沈みています
                    駒沢 信子

 何げない描写のようでいて、一首中に、今やこの世を去ろうとする姑の姿を鋭く写している。そこには作者自身の死生観が反映されているようにも感じられる。

ミリタリー化の本音ひそませ爆心地に今日しらじらと弔ひことば
降伏の日ソウルに在りき我が家へ夜つぴて投石日本イルボン奴と
                    松岡 正富

 広島、長崎の地における首相の謹厳な挨拶の裏面を鋭く突いている。そこには降伏の日の自身の苦い体験も働いているのであろう。



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