短歌雑記帳

アララギ作品評

 2013年12月号選歌後記    三宅 奈緒子

溶岩台地尽きてひなびしコナの町コーヒー農園に驟雨過ぎたり
衣の裾流るるごとく重なれる奇しき溶岩畏れつつ踏む
                    清野 八枝

 ハワイといえば観光地として余りに知られているのでその地を作品化すること自体、尻ごみしたくなるように思うが、作者は敢えてそうした俗念から離れてまともに、ハワイの自然そのものを作品化しており、その熱意が一首ごとに伝わって来る。

教科書に墨塗りて学びし日もはるか学舎は間なく廃校となる
「戦場の兵士を思へ」と厳しかりし若き教師去りぬ敗戦ののち
                    志岐 文枝

 冒頭の回顧詠からは、終戦後一時期の学校現場をまざまざと思い返させられる。また後半の家庭詠は特別の題材ではないが、子が家を離れ、老二人となった日常を淡々と写し出して共感させられる。

皇軍の聖戦とふ代に言挙げせぬ歌を挙げてぞ『支那事変歌集』
涙拭ひ逆襲し来たる学生兵を熱もちて歌ふ渡辺直己は
                    北村 良

 アララギ会員の作品から成る『支那事変歌集』は作中に詠われている「文明選」の精神に貫かれたものだけに、戦後特に注目されるようになった。その作品中から実例をあげつつその精神を伝えており、年月を経ても古びることない精神を示している。

鉛活字とともに滅びしわが手職年月過ぎゆきて知る人もなく
滅びゆく活版技術をあなどるこゑ聞きて励みきあはれ吾らよ
                    藤永 文雄

 今は滅びた活版技術、それはこの作者の繰り返し詠ってやまない題材である。年老いた今、その思いは一層つのるのであろう。同題材を繰り返し詠うことはそのこと自体、賞揚されるものでは必ずしもないが、現在の作者にとっても捨て難い感慨であれば詠う意味がある。



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