短歌雑記帳

アララギ作品評

 選歌後記    三宅 奈緒子

マニキュアをうすく塗りたる細き手には病む父の手を握りしむ
まなじりをつたひし涙そのままに娘は遠く帰りゆきたり
ほしいままひとりの心遊ばせてゆくりなく歩む秋深む街
                    大矢 稚子

 海外で暮らしている娘夫婦が病む父を見舞に帰国したのであろう。娘の姿をそのまま写し作者の切ない思いを共にこめている。第三首は娘が帰国したのちのむなしさを雰囲気として写し出している。

瀬戸を抜け尾根越えて吹く風に回る発電風車七基の唸り
刎島と言へる小さき島の名の由来を探す夜遅くまで
                    小島 正

 風車を歌材とすることはまだ数少なく、中々にむつかしいと思われるが、無駄なくひきしめて表現し得ている。第二首、作者が何故その島の名に固執しているのか判らないだけにかえって作品としての面白味がある。

それぞれに人は孤独に泳ぎ居る狭きコースに気を配りつつ
水底にゆらぐ光の影濃しと泳ぎて秋に向かふ心か
                    東口 雪子

 久々にこの作者の水泳の歌に接した。水泳が作者にとって単なるスポーツではなく、何か心情的なものにつながっている所に、独自なものを感じる。



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